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呼吸器・集中治療医Dr. Maedaの武者修行 in Alabama(22)

講座だより

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呼吸器・集中治療医Dr. Maedaの武者修行 in Alabama(22)

 「Medical ICU⑰ ICU Medications⑦」

 5月中旬は毎年ATS(American Thoracic Society)があるのと、ちょうど同時期に公立学校の年度末も重なるので毎年忙しいです。今年はいろいろな状況が重なり、14連勤後の午後にそのまま飛行機でSan Franciscoに向かうことになり大変でしたが、色々な人に会ったり観光も少しできたので良かったです。出張の間いつも子供達をみてくれている妻には本当に頭が下がります。一時帰国も目前です。

  1. 腎臓・酸塩基・電解質異常に関係する薬剤
    Medical ICUでは非常によくある病態で、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、リン酸カリウム(+ナトリウム)など電解質補正に使う薬剤も大きくは日本と変わらないと思います。高カリウム血症に対してはpotassium binder (いわゆるイオン交換樹脂)を使いますが、ResidencyのときはKayexalate (sodium polystyrene sulfonate), Fellowshipのときは2015年にFDAに認可されたVeltassa (patiromer)、そしてUABでは2018年に認可されたLokelma (zirconium ciclosilicate)を使っています。だんだん効果発現が早く、副作用が少なくなってきているようです。高カルシウム血症ではzoledronic acidやcalcitoninを、SIADHによる低ナトリウム血症では3%高張食塩水や、たまにurea (尿素) を使う場合があります。TLS (tumor lysis syndrome: 腫瘍崩壊症候群) はたまに遭遇し、予防はallopurinol, 起こってしまった場合の治療はrasburicaseを使用します。G6PD (glucose-6-phosphate dehydrogenase) 欠損症があるとrasburicaseが使用禁忌(溶結性貧血、メトヘモグロビン血症)になるので、リスクのある患者ではできれば事前にチェックしておきます。日本では少ないと思いますが、African-Americanでは10%程度でみられるようです。あとは、UABではScholl’s solution (sodium citrate) が代謝性アシドーシスに対して好んで使われているぐらいでしょうか。
  2. 内分泌系の薬剤
    最後は内分泌系、といってもICUで通常使うのはインスリンとステロイドぐらいです。UAB Hospitalでは皮下注射のインスリンとしては長時間作用型はInsulin glargine (Lantus)、短時間作用型はlispro (Humalog) が採用されています。DKAは非常にありふれており、Insulin regular (Humulin R) のボーラス+持続静注で治療を開始します。Anion Gapが1-2回正常範囲になり、経口摂取が可能となった時点でglargineを適当な量投与し、2時間後に持続静注を終了するのが通常です。最近はglargineを最初から救急外来で打っておいて持続静注の量を減らすのがプロトコルとなっているようです。ステロイドでもっともよく使うのはhydrocortisoneで、いわゆるSDS (stress dose steroid) として50mg 静注を6時間ごとで開始します。Septic shockで高用量の血管収縮薬を使っている場合 (しばしばfludrocortisoneを併用します)、もともとステロイド内服中の患者の低血圧等で使用するほか、最近は重症市中肺炎でもCAPE-COD trial (PMID: 36942789) に基づいて8または14日間使用します。Prednisone は喘息やCOPD増悪等で使い、prednisoloneはたまにアルコール性肝炎で使用する程度です (静注はmethylprednisoloneで日本と同じです)。DexamethasoneはCOVID-19を最近見ないのでたまに喉頭浮腫や脳腫瘍で使う程度です。

ATSで3年ぶりのSan Franciscoでした。Ghirardelliというチョコレートが有名で、本店の前はGhirardelli Squareという名前の広場になっています。

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