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呼吸器・集中治療医Dr. Maedaの武者修行 in Alabama(25)

講座だより

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呼吸器・集中治療医Dr. Maedaの武者修行 in Alabama(25)

「Chronic Obstructive Pulmonary Disease ⑤Pharmacologic Therapy in 2025」

米国は7月から新年度で、新しい医学生、レジデント、フェロー、そしてスタッフが入ってきたり、異動があったりします。私もFaculty 3年目となり、仕事内容に少し変化がありました。忙しくなりすぎたDivision Chief (最近、Chief of Department of Medicineに昇進されました)  から引き継ぐ形でCOPD専門外来を担当することになったのと、同様に人手が必要であったPulmonary Rehabilitationプログラムに準管理職的ポジションで関わることになりました。また、8月にはフェローのCOPD関連の講義を担当したり、専門としているCOPD関連の仕事が増えてきて喜ばしいところですが、研究に関しては次のグラントに向けて草案をまとめる(それ以前に勉強する)ため膨大な時間が必要そうで、まだまだ暗中模索といったところです。

今回はCOPDの薬物治療についてです。以前2021年に総論的な記事を書いていますが、それ以降GOLDの分類基準が少し変わったのと、いくつか新規にFDA承認を受けた薬剤があります。初期治療としては、新規患者ではGOLD Groupをもとに選択します。以前はABCDの4つに分かれていましたが、2023年にABEの3つに再編成されわかりやすくなりました。まずは呼吸困難の程度を評価するModified medical research council (mMRC) score と、8項目の症状の問診票であるCOPD Assessment Test (CAT) の点数、そして過去1年以内の増悪の数・重症度をもとにgroupを決定します。 Group A (mMRC 0-1, CAT  <10, 増悪0-1回、入院なし) では “A bronchodilator” が推奨されており、症状がごく軽度ならAlbuterol (SABA) 頓用のみ、より頻繁にあれば長時間作用型吸入薬 (だいたいLAMA: Spiriva RespimatやIncruse Elliptaなど) を使ってみます。Group B (mMRC >=2, CAT >=10, 増悪0-1回、入院なし) とGroup E (増悪による入院1回以上、あるいは外来で薬物治療を必要とする増悪2回以上) では初期治療からLABA/LAMAの両方を使う (Stiolto Respimat, Anoro Elliptaなど) ことが推奨されており、以前からの変更になります。Group Eでは、末梢血好酸球数 (BEC) >= 300の場合LABA/LAMA/ICS (Trelegy Ellipta, Breztri Aerosphereなど) をいきなり始めてもよいとされています。

呼吸器内科外来で診るCOPDではだいたいmMRCやCATの点数が高くGroup BまたはEなので、LABA/LAMA または LABA/LAMA/ICSを導入後にフォローアップし、呼吸困難の程度、増悪の頻度をチェックします。呼吸困難が続く場合の選択肢としては、ICS未導入でBEC >= 100の場合はICSを追加、他には2024年にFDA承認を受けた吸入PDE3/4阻害薬であるensifentrine (Ohtuvayre) があります。ENHANCE-1/2 trials (PMID: 37364283) ではLAMAあるいはLABAのどちらかを使用中の患者でensifentrineを加えることで呼吸困難等が改善すること、また安全性が示されています。処方するために患者と医師のサインが専用の書類に必要となるので、COPD専門外来のときは常時印刷したものを持ち歩いています。まだ効果を評価できるほど診療経験がないですが、過去数か月で処方した中で副作用が問題になったりは今のところ聞いていません。

増悪を繰り返す患者の場合は、従来より選択肢であった経口PDE-3阻害薬であるroflumilast (Daliresp) 、マクロライド系抗菌薬であるazithromycin (500mg 週3回か、250mg 1日1回) のほか、BEC >= 300の場合は生物学的製剤が使えるようになりました。大規模RCTであるBOREAS (PMID: 37272521) / NOTUS (PMID: 38767614)  に基づきIL-4/13阻害薬であるdupilumab (Dupixent) が2024年に、MATINEE (PMID: 40305712) に基づきIL-5阻害薬であるmepolizumab (Nucala) が2025年にFDAに承認されました。いずれも増悪の頻度の減少、dupilumabでは肺機能など他の臨床アウトカムの改善も示されています。好酸球増多などT2 inflammationがみられるCOPD患者は約30%程度いるとされており、今後も生物学的製剤の臨床試験が増えていくものと思います。

 日本から親類家族がはるばる旅行に来てくれ、色々なところに行きました。写真は世界最大の鉄像として知られているVulcan像です。

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