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呼吸器・集中治療医Dr. Maedaの武者修行 in Alabama(26)

講座だより

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呼吸器・集中治療医Dr. Maedaの武者修行 in Alabama(26)

 「Tele-ICU」

米国の医師の働き方は基本的にシフト・ローテーション制なので週によってやることが違います(外来はだいたい毎週あります)。In personの診療がまだまだ主ではありますが、今年度の10月、11月はTele-ICUのシフトを多く入れています。Tele-ICU (あるいはelectronic ICU) については6月の京大訪問時にもご紹介させていただいたのですが、こちらの記事でも書きたいと思います。

Tele-ICU自体はJohns Hopkins大学のBrian Rosenfeld, Michael Breslow両医師が1998年に設立したVisICUというのが最初といわれています。ICUはあるものの集中治療医がいない(いても常駐していない)ような病院は結構多く、急変対応やその後の診療に遅れや漏れが出ることが問題ですが、これを遠隔地の集中治療医がカバーすることで臨床転帰を改善することを狙っています。それから約20年後の2018年に行われた、4,396の急性期 病院を対象とした横断研究では、病院の17.9%、ICUベッドの28.4%がTele-ICUによってカバーされているとされています(PMID: 34235456)。UABでは2018年にプログラムが立ち上げられ、UAB Highlands病院の建物内にTele-ICUのスペース (“Bunker”) があり、医師と看護師で役割・カバーする範囲が異なりますが、UAB Hospital内のICUに対して補助的な役割を担っているのと、2025年9月現在で11のアラバマ州内の病院と提携し遠隔ICUコンサルトを行っています。ICUの各部屋にカメラが設置されていて常時モニターのデータが自動で記録されているところ(eICUと呼ばれています)と、on-demandでテレビ電話のような機械を使って診療をするところの両方があります。

医師の配置と役割としては、1-2人の集中治療医が24時間Tele-ICU Bunkerに常駐して様々なニーズに対応する体制をとっています。日中のシフトは、Tele-ICU 1はテレビ電話を使用した外病院のコンサルトのみ、3-4病院程度担当し、7-15時、自宅からの勤務可能というものです。各病院のICUに入室している患者のうち、集中治療専門医の診療が必要とされる患者を午前中に回診、remote accessで電子カルテのプログレスノートを書き、それ以降は新規入室・コンサルトに対応します。Tele-ICU 2はTele-ICU Bunkerに8-17時の間常駐していて、eICUを導入している外病院を含む5病院程度を同様に担当するほか、UAB Hospital MICUへの転送依頼の電話も受けたり、たまにUAB HospitalのMICU以外の人工呼吸器のコンサルトの手伝いをしたり、色々です。これらは月~金で一区切りで、週末はTele-ICU 1と2を1人がまとめて担当するのと、別の提携病院のカバーをテレビ電話を使って行うTele-ICU 3のシフトがあります(主に集中治療、たまに呼吸器内科コンサルトも)。時間外のシフトは全てTele-ICU Bunkerで働きますが、17-23時が”evening” シフトでUAB HospitalのMICUの新規入院の評価、不足しているオーダー(VTEやストレス潰瘍予防、身体抑制のオーダーなど)を入れるなどするのと他院からの転送依頼を受けます。同時に17-翌1時が”surge” シフトで、外病院からのコンサルトを受けるのとUAB Highlands内の集中治療のニーズにeICUまたはin personで対応します。23-翌8時までは”night” シフトで、1人でこれらすべてに対応します。

システムが非常に複雑で、作り上げるまでが大変だったろうと思うことが多いですが、特に時間外のシフトは単発で入れることができるので週間予定に融通が利きやすく気に入っています。日によってコンサルトが全然ない日もあれば、1回のSurgeシフトで7-8人重症患者が別々の場所で発生してかなり忙しかったこともあります。画面越しに挿管や抜管の判断を行うのは変な感じがしましたが、それも慣れてきました。一番初日のTele-ICU 3のシフトで、FiO2 100%のARDS・AKIの人、血管収縮薬3種類投与されている敗血症性ショックの人を含む20人程度をビデオ電話で回診したのが一番大変でしたが、慣れてくるとどこまで介入するかの加減がだんだん分かってきます。身体所見が自分でとれない、特定の検査ができなかったりあってもシステムが別のため見れない(脳波、心電図など)、他診療科の専門医がいないなどのことで、何でもある大学病院とまったく同様の診療を行うのは難しいですが、提携病院の診療の質の向上・収入の増加、転送が必要な症例では迅速な判断ができる、などのメリットが数多くあります。患者・家族からの反応はどうなのかとも最初思いましたが、UAB Hospitalまで何時間もかけてお見舞いに来るよりは、地元の病院でビデオ電話での診療でよくなるのならばその方がいいということが多いです。

写真は本編とは関係ありませんが、UAB Hospitalのビル群のひとつであるSpain Rehabilitation Centerです。慈善家のSpain夫妻が1960年に多額の寄付をされ、設立されたとのことです。呼吸器、集中治療関係では気管切開後患者の回復期リハビリ入院を受け入れてくれているほか、心臓・呼吸器リハビリテーションの外来もここにあります。

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