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呼吸器・集中治療医Dr. Maedaの武者修行 in Alabama(18)

講座だより

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呼吸器・集中治療医Dr. Maedaの武者修行 in Alabama(18)

2/2025

「Medical ICU⑬ ICU Medications③」」

おもにICUで使われる薬剤等について、まだまだ思いつくままに書いていきます。今回からは出血・凝固関係です。

  1. 抗血栓薬

    血栓症は人種的なものや肥満が多い関係もあるのか、非常に多いです。日本との一番大きな違いは、低分子ヘパリンであるenoxaparinが血栓症の予防、治療ともメインで使えるという点です。ICUに限らず入院患者の多くはVTEハイリスクであり、出血リスクが高くない限りは施設のプロトコルに則ってenoxaparin (40mg皮下注24時間毎; 高度肥満の場合は1日2回のこともある) またはheparin 5000U 皮下注8-12時間毎(腎機能が低い場合に好まれます)を投与します。治療量が必要な場合はEnoxaparin 1mg/kg 皮下注12時間毎が基本の量で、最近は血中anti-Xaをチェックしながら薬剤師で量を調整してくれることも出てきました。腎機能が悪い場合などHeparin持続静注も使う頻度が高いですが、APTTのモニタリング、流量の調整は看護師がプロトコルに沿ってやってくれる施設が多いです。HITTの心配がある場合は施設によって違うかもしれませんが、UABではAPTTをモニターしながらBivalirudin持続静注を使っています。

    AfibやVTEの既往があってもともとVitamin K antagonist (= warfarin) やDOACを服用している患者も多いです。出血リスクを伴う手技が必要な患者がICUでは多いので、入室直後はだいたい上記の通りEnoxaparinやHeparin持続静注に変更して様子を見る場合が多く、落ち着いたらもともとの薬剤に戻していきます。Apixaban (Eliquis: 「エリクィス」と発音します) が一番メジャーで、Rivaroxaban (Xarelto: 「ザレルト」) が次に多く、機械弁などでWarfarinの患者もそこそこ診ます。Dabigatran (Pradaxa: 「プラダキサ」) はごく稀、日本発のEdoxabanは残念ながら全くみたことがありません。

    抗血小板薬はAspirinがメジャーで、出血の時は止めますが、手技関連の出欠リスクは変わらないとされており、手術前に止めるなどの対応は行わないことが多いです(担当医や診療科によって違います)。Clopidogrel (Plavix) やTicagrelor (Brillinta) を服用している患者では生検や手術の緊急性がそこまで高くない場合は5-7日の休薬となる場合が多いです。

    Fibrinolytics (血栓溶解薬) はMICUで使う機会が一番多いのはSubmassive or Massive PE (pulmonary embolism: 肺塞栓症) ですが、明らかに必要な場合はICU入室前にED (救急外来) で既に投与されているので、自分が使用の判断を迫られる場面は少なく、またよっぽど切迫していない限りPERT (pulmonary embolism response team) と相談します。Submassive (Intermediate-high risk) PEが抗凝固のみで経過をみて悪くなってきている ときが最も典型的でしょうか。基本的にはMassive PEで血栓溶解療法をする場合はAlteplaseの点滴静注(100mgを2時間かけて)を選択しますが、出血リスクが高めの患者ではいったん50mgを投与してみたり、Catheter-directed thrombolysisを選択する場合もあります(1mg/hrを24時間かけて肺動脈カテーテルから投与)があまり標準化された対応というのはありません。普段の診療で関与することがほぼないのですが、STEMI (急性ST上昇型心筋梗塞) でPCIがすぐにできない場合にはtenecteplase (TNKと略されます) が静注一発でよいためよく使われているようなのと、最近は脳梗塞でもAlteplaseより好んで使われています。PEで使った経験は個人的にはまだないのですが、Cardiac arrestでPEが疑われる場合などはHail Mary (「神にも祈る」) で使う場合を散見します。

1月半ばに寒波が襲来し、とても珍しく雪が積もりました。外来の日だったのですが、移動ができないためTelemedicine Visitとなり自宅から患者とビデオ電話で診療しました。ICUの担当者は病院近くのホテルや、睡眠検査の部屋に前泊するという対応をとっていたようです。雪国Rochesterではすぐに道路整備がされていたのですが、なかなかそのようにはいかないようです。

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