
About
呼吸器・集中治療医Dr. Maedaの武者修行 in Alabama(19)
講座だより
呼吸器・集中治療医Dr. Maedaの武者修行 in Alabama(19)
3/2025
「Medical ICU⑭ ICU Medications④」
抗凝固薬と対になるのは出血の対応です。
- 止血薬等
Medical ICUで診る出血の多くは非外傷性の出血性ショックで、消化管出血、後腹膜出血や腸腰筋、大腿四頭筋、腹直筋などの筋肉内出血が主な原因となります。米国では血栓症が多く、抗凝固薬の使用が多いためこうした出血も多くなる印象です。INR, APTT, Fibrinogenは出血性ショックでは基本的に測定するのと、最近はTEG (thromboelastography) も同時に測定します。出血性ショックで輸血がいるような状態のときは血栓症のリスクも考慮しつつCoagulopathy (凝固異常) の補正をケースバイケースで行います。Warfarinは機械弁やAPS (Antiphospholipid syndrome: 抗リン脂質抗体症候群) を除くとほぼ診ませんが、効きすぎでINRが5以上などの場合 (“Supartherapeutic INR” と言います) は特に出血が心配になる一方、こういった患者では完全にreverseしてしまうと重大な血栓症のリスクを負うことになるため、マイナーな出血の場合はVitamin K の点滴静注を10mg入れて様子を見ることもあります。出血が重篤な場合は、Vitamin Kに加えてKcentra (4-factor prothrombin complex concentrate: factor II, VII, IX, Xとprotein C / Sを含有) を投与して迅速にreverseします。Kcentraは1000 unitで$3580と高額ですが(用量はだいたい薬剤師と相談しますが、50 units/kgが目安)、FFPよりも臨床成績がよいとされています(PMID: 27488143)。Heparin持続静注やEnoxaparinで治療している患者ではProtamineがreverseのために考慮されるケースが多いですが、同様に血栓症のリスクが高いため輸血で数時間耐えながらIVC filterなど次の手をうつことが多いです。
DOAC関連の出血では、心房細動で慢性的に飲んでいるなど血栓リスクがそこまで高くない場合が多いため、より積極的にreversalをかけることが多い気がします。Dabigatranには特異的拮抗薬であるIdarucizumabがあり、UpToDateによるとidarucizumabは1回量5gで$6123となっています。Activated PCC (FEIBA: KCentraと同様のFactorを含むが、Factor VIIは活性化されている) でもよいようですが、薬価はidarucizumabのほうが若干安く済むようです。一方、factor Xa inbhibitor (Rivaroxaban, Apixaban, Edoxaban) に特異的拮抗薬としてandexanet alfaが存在しますが、高用量 (約1800mg) で$27000と非常に高額で、正直一回も使ったことがありません。KCentraでも臨床成績には大差がないものと理解しており(PMID: 36331504)、これからもしばらくはKCentraを使い続けると思います。
これ以外で一番よく使うのは線溶系の働きを抑えるtranexamic acid (TXA) で、喀血では吸入TXAがけっこう反射的に使用されています。外傷、脳出血、産科出血などでは静注投与もすると思いますが、MICUで診る患者層ではあまり全身投与が利益がある場合は少ないです。類似の薬剤にaminocaproic acidがあり、使用経験は少ないですが血液腫瘍系のDICでたまに使われているイメージです。
赴任するまで知りませんでしたが、内科学の権威であるDr. Tinsley HarrisonはUABに勤めていました。私のオフィスがある建物はTHT (Tinsley Harrison Tower) と呼ばれており、外にはこのような像があります。