
About
巻頭言 一灯照隅(いっとうしょうぐう)
講座だより
● 巻頭言 一灯照隅(いっとうしょうぐう)
小池 薫 京都大学大学院医学研究科
初期診療・救急医学 教授京都大学医学部附属病院 救急部長
この原稿を依頼していただいたのは平成23年1月であっただろうか。内容は救急医療に関して日頃感じていることなら何でもよく、締め切りは3月25日ということであった。 3月中頃から手をつけようと考えていたところ、3月11日に東北関東大震災が発災した。本日すでに締め切りは過ぎている。この間、日本中が被災地の方々のために奮闘している。 医療の分野でも、DMATを始め、さまざまな活動が展開されている。これから時間がかかるかもしれないが、 試行錯誤も繰り返すかもしれないが、この困難を乗り越えることさえできれば、必ずや日本という国は、 今まで以上にすばらしい姿で甦り、世界に対しても範を示せるに違いありません。以下、日本の片隅にある京都という町の、その片隅で起こった出来事を書かせていただきます。
3月22日(火)朝9時ころ、京都市消防局から私に電話が入った。「片山総務大臣から門川京都市長に電話が入り、 福島第一原発での消防活動支援のため、京都市消防局から緊急消防援助隊を派遣することになりました。被ばくを防御するための薬をどのように入手すればいいでしょうか」。 早速、私は薬剤部に電話し、ヨードカリに関する情報を聞いたところ、量は十分にあり、準備には1日半の時間が必要とのこと。このあとすぐに院長室に向かうと、 幸いにも院長は在室されていた。院長と話し合い、隊員40人には外来のすいた時間に来ていただき、処方に加えて、問診と採血・採尿を行うという原案ができた。 この内容を消防局に報告すると、「それはありがたい、詳細を詰めるため明日23日に京大病院にうかがいます」と返事があった。
翌朝10時、消防局の車で来られた3人を迎え入れ、車は救急外来脇に駐車して、会議室に案内。病院からの出席者は、事務4名、看護部1名、薬剤部1名、検査部1名と私。 そして1時間半話し合った結論は、次の通りであった。1)診察は24日25日午後に2回に分けて行う、 2)採血項目は、放射線医学総合研究所が東京消防庁隊員に対して行った内容に、網状赤血球数、血小板数を加える、3)ヨードカリは100mg丸薬とし、 活動の24時間前に1粒内服する、4)問診票を作成する、5)検査は電子カルテ上で簡単にセットオーダーできるようにする、6)処方は手書きとし、 分包した薬は責任者に一括して渡す、7)帰還後、京大病院で再診する。同日午後、病院執行部会議が開催され、上記すべてが承認され、 出発前の診察は、病院長、副病院長直属の医局員3名が担当し、帰還後の診察は、救急部、放射線診断部、放射線治療部の医師3名で行うこととなった。 3月24日25日、隊員達の出発前の診察は無事終了した。
本日3月27日(日)朝9時半、京都市役所前広場には、緊急消防援助隊11隊 計40名(スーパーコマンドレスキューチームを含む)と、指揮隊車2台、 特殊災害対策車1台、救助工作車1台、司令車2台、大型除汚システム車1台、ポンプ車2台、大量送水工作車1台、多目的物資搬送車1台の計11台、 そして隊員達のご家族が集結し、福島に向けての出発式が行われた。髙木総括隊長による出発の報告に引き続き、市長から激励の言葉がかけられ、 隊員は我々と握手したのち、各車両に分乗して旅立った。今後の彼らの予定は、3月28日福島県いわき市立総合体育館へ集結し、 前線指揮所(Jビレッジ)において事前訓練、29日30日原子力発電所構内で放水活動。31日早朝に東京を出発して京都へ帰隊、 午後に京大病院を受診して解散である。彼らの活躍と安全な帰還を心からお祈り申し上げます。
一灯照隅(いっとうしょうぐう)。たとえ一本のロウソクでも身の周りを照らせば明るくなる、それを万人が照らせば「万照」、ことごとく世界を照らせば「遍照」。 すべての始まりは常に小さなことから。皆様、それぞれの土地でそれぞれのできることをやっていきましょう。

平成23年3月13日 東北大学附属病院のヘリポートにて、
ヘリコプターによる搬送を待つ京都大学附属病院DMATチーム