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研究室訪問 ~京都大学医学研究科 社会健康医学系専攻健康情報学分野~
講座だより
● 研究室訪問
~京都大学医学研究科 社会健康医学系専攻健康情報学分野~
梅雨の晴れ間となった6月某日、初期診療・救急医学講座の辻村 友香先生が大学院生として所属されている 京都大学医学研究科 社会健康医学系専攻健康情報学分野教室(http://www.healthim.umin.jp/)を 訪問いたしました。
京都大学は、日本でも数少ないSPH(School of Public Health)を有する教育機関であり、1年間で完結する臨床研究者養成コース(MCRコース:注)も開設されています。 医学部附属病院とは近衛通りを挟んで目と鼻の先なのですが、教室は医学部校内の瀟洒で近代的な建物の2階にあり、 先ほどまでER勤務をしていたのが信じられないほど静かで落ち着いた環境でした。
カンファレンスの様子
辻村先生は卒後8年目で、倉敷中央病院で麻酔と救急・総合診療のトレーニングを受けた後、昨年度1年かけて臨床研究者養成コース(MCRコース)を履修し、 MPH(Master of Public Health)を取得し、今年度より京都大学医学研究科 社会健康情報学講座の博士課程に在籍し、 救急隊の活動の質について課題抽出と分析に着手しているとのことです。
当日は、中山 健夫教授にもお時間をいただき、お話をお伺いすることができました。きちんとデータベースを作り、そこから得られたデータから仮説を立て、 それを検証していくといったきちんとしたプロセスの重要性(RCTはその手段にしか過ぎません)についてや、そのようなデータベースを作成するための環境整備の話、 私たち臨床医とSPHの先生方との関わり方など、話は多岐にわたりました。
話のなかで、中山先生がおっしゃっておられたのですが、「たとえば、日本に癌患者さんが何人いるのか、ましてやどんな治療を受けられてどんな結果になっているのかは全くわからない、 それくらい臨床研究の基礎となる記述研究は日本では遅れている」とのことです。
自問してみますと、これはまさに救急医学にも当てはまり、私たち救急医は、発生率も治療内容も転帰も実は不明な多くの疾患の中を、 個々の経験と、きわめてサンプルサイズの小さなデータ(もしくは欧米のデータ)のみを指針として治療を行っている状況で、 まさしく暗闇の大海原を懐中電灯1本で進んでいるようなものだなあと感じています。
Social security numberが導入されていない、データベースといってもその打ち込み自体を救急医が多忙の中打ち込まないといけないことが多い、 など環境面において抱える問題はきわめて多いと思いますが、救急医学における臨床研究も、何とか少しずつ前進していくことができたと考えています。
中山 健夫教授と辻村先生
最後に、お忙しい中、暖かく迎えていただきました、中山 健夫先生および京都大学医学研究科 社会健康医学系専攻健康情報学分野の皆様、本当に有り難うございました。
注:臨床研究者養成コース(MCRコース)
臨床研究者養成コース(Master of Clinical Research: MCR)は、 医学研究科社会健康医学系専攻(School of Public Health: SPH)の特別コースで、臨床医を対象とした1年制のコースです。 これまでの我が国の医学研究は、主に生命科学研究に重点をおいてきましたが、同時にヒトや集団を単位とした臨床研究を推進する必要があります。 MCRは、この領域で活躍する研究者を育成するための、我が国で初めての本格的な教育課程です。 自らの臨床経験に根ざしたリサーチ・クエスチョンにもとづいた臨床研究を志す方の応募を歓迎します。(アドミッションポリシーより)
関連ホームページ http://www.mcrkyoto-u.jp/index.html