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呼吸器・集中治療医Dr. Maedaの武者修行 in Alabama(14)

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呼吸器・集中治療医Dr. Maedaの武者修行 in Alabama(14)

10/2024

Cough

9月はHighlands ICU、Tele-ICU、そしてLee BranchやGardendaleといった郊外にある呼吸器外来のローテーションで、ほぼUAB Hospitalのメインの建物に行かないまま1か月ぐらい経ちました。Lee BranchとGardendaleはいずれも今年度から呼吸器内科医が毎週2日ずつ外来出向し、患者がBirminghamまで出向かなくても専門医受診できるように体制がととのいつつあります。外来はICU等と違って診療補助のスタッフ (ResidentやNPなど) が基本的にはいないので、初診では特によく考えて鑑別診断や診断的治療についてもよく患者に説明するよう心がけています。検査の予定や血液検査などの結果は多くの患者がPatient Portalのアプリであとから見れるのですが、治療方針や細かいニュアンスはそこには反映できず、できるだけ外来の間に分かってもらうようにしなければいけません。アナログですが、紙に要点を書いて渡すほうが効率よく満足度も高いような気がするので最近はできるだけ白紙とペンを持って診察室に入るようにしています。特に複雑な治療(例えば気管支拡張症に対するAirway Clearance Therapy: ”1. Nebulized Albuterol; 2. Nebulized Hypertonic Saline; 3. Flutter Valve; 4. Intentionally cough up the sputum” -たぶん自分が日本語で説明されても覚えられないと思います)は、第2言語の英語で色々話して分かってもらおうと努力するよりもメモに書き出して渡したほうがずっとアドヒアランスが良いと思います。

さて、一般呼吸器内科初診の症候で多いのはCough (咳嗽)とDyspnea (呼吸困難) です。いずれもPCPである程度の対応をした後、PFT (呼吸機能検査) ついでに呼吸器外来に紹介されてくるパターンが多いですが、紹介状に有用な情報がない(あるいは、なぜか予約はとられたものの紹介状自体が届かない)場合やself-referral (紹介状なしでの受診) も意外と多く、詳細な病歴聴取を愚直に行うところからのスタートとなることが多いです。通常、呼吸器内科外来に来る症例は8週間以上続くChronic Cough (慢性咳嗽)であり、Postinfectious Cough (感染後咳嗽; 基本的にウイルス感染症) としても長すぎるため非感染性の原因を重点的に鑑別していきます。よくあるのはアレルギー等による慢性鼻副鼻腔炎を背景としたUACS (upper airway cough syndrome: いわゆるpostnasal drip 後鼻漏) 、GERD (gastroesophageal reflux disease: 胃食道逆流症) 、asthma (喘息 – cough-variant asthma 咳喘息を含む) 、nonasthmatic eosinophilic bronchitis (非喘息性好酸球性気管支炎)で、UACSには市販されているFluticasone propionateなどの経鼻ステロイドや生理食塩水洗浄、GERDにはPPI、後2者には吸入ステロイド(喘息の場合は吸入気管支拡張薬も)が治療となります。他にはACE阻害薬による咳や、たばこ喫煙や大麻などの吸入、粉塵曝露の病歴もチェックします。忘れがちですが、耳垢や異物による外耳道の刺激に対する反射Arnold’s nerve reflex(PMID: 12241935)で咳が出ることもあり、成人のunexplained coughでは約25%にみられたという報告もあります (PMID: 29197546) 。

身体所見やPFT, 胸部X線で大きな異常がない限り、病歴からあたりをつけて診断的治療を行います。例えばPPIを3か月程度使ってみたり、大麻吸入をやめてみたりして次回外来で再評価、を繰り返します。一通りやっても変化がない場合は、副鼻腔や胸部のCTを撮影してみることもあります。ガイドラインは一応CHESTのものがあり(PMID: 26426314)、methacholine challenge testや喀痰好酸球といった検査は厳密には喘息の除外やnonasthmatic eosinophilic bronchitisの鑑別に役立ちますが。検査へのアクセスが良くなく、私は行き詰まっている症例で患者希望があるときにオーダーするぐらいです。最終的にはgabapentinやamitriptylineを使ってみたり、SLP (speech language pathologist: 言語聴覚士) によるリハビリテーションプログラムに紹介したりします。最近はENT (耳鼻咽喉科) でsuperior laryngeal nerve block (上喉頭神経ブロック) を受ける人もいますが、効果のほどは良く分かりません。短期間で劇的に改善することも悪化することも少ないので、患者・医師ともに忍耐が求められる(?)症候だと思います。

 この前の週末は、車で1時間ほどの隣町であるTuscaloosaのこども博物館に行ってきました。個人的にはこの微生物パズルがツボでした (SARS-CoV-2も右下にあります) 。University of Alabama (アラバマ大学本校) もこの町にあり、大学フットボールチームの試合の日ですごい人出でした。

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