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呼吸器・集中治療医Dr. Maedaの武者修行 in Alabama(15)
講座だより
呼吸器・集中治療医Dr. Maedaの武者修行 in Alabama(15)
11/2024
「Dyspnea」
10月上旬はACCP (American College of Chest Physicians) の年次総会であるCHEST annual meeting がBostonであり、UABに就職して最初の演題が通ったため4年ぶり(現地参加は5年ぶり)に行ってきました。CHESTはATSと比べると規模は小さめですが、呼吸器・集中治療の医師にとっては臨床医学知識のアップデートに有用で、医学教育やAdvocacy関連に力を入れていることを感じました。Bostonのダウンタウン、南太郎先生・平尾先生との会食、NYCやRochester時代の同僚との再会などとても楽しい時間でした。
今月は前回のCough (咳嗽) に続いて、呼吸器内科外来によく紹介されてくるDyspnea (呼吸困難) について書きたいと思います。呼吸器疾患のみならず耳鼻咽喉科系(副鼻腔炎、声帯の病変など)、循環器(心不全、虚血性心疾患、肺高血圧症など)、血液(貧血、Methemoglobin血症)、内分泌(甲状腺機能亢進および低下症)、神経・筋骨格系(重症筋無力症、肥満や側弯症など)、精神疾患(全般性不安障害)など幅広い鑑別が考えられ、病歴、身体診察が重要になります。特にガイドラインなどがあるわけではないので色々なスタイルを試していますが、病歴聴取ではDyspneaの起こる状況、増悪因子をよく聞くようにしています。アレルゲンや粉塵曝露、喫煙、薬物吸入などに関係あればCOPDや喘息、肺臓炎などの気道・肺実質疾患を考え、PFTや胸部X線・CTを撮影します。Dyspnea on exertion (DOE; 労作時呼吸困難) では呼吸器系の検査だけでなく血液検査(ヘモグロビン値、甲状腺関連、生化学、BNPなど)、心電図、心臓超音波検査、運動負荷試験などを適宜行います。それでもよくわからない場合はCardiopulmonary exercise test (CPET) が循環器、呼吸器、筋骨格系のなかであたりをつけるのに役立ちます。
あとは体位に関する症状の変化もシンプルですが役立ちます。Paroxysmal nocturnal dyspnea (PND; 発作性夜間呼吸困難) やOrthopnea (起坐呼吸) は心不全などによる体液貯留の症状としてよく知られていますが、Bendopnea (前屈時に増悪する呼吸困難) も心不全に関連があるとされています (PMID: 24622115)。一応、これらは横隔膜の問題でも起こるとされていますが基本的に心不全をまず鑑別します。非代償性肝硬変患者ではいくつか鑑別が増えますが、Platypnea-orthodeoxia (座位で増悪する呼吸困難、低酸素血症; 右→左シャントに関連) はチェックし、陽性ならhepatopulmonary syndrome (肝肺症候群) を疑っていきます。ほかにはhepatic hydrothorax(肝性胸水)やportopulmonary hypertension(門脈肺高血圧症)なども考えます。
特に既往がなく初診で歩いてきた患者がいきなり心原性肺水腫だったり、DapsoneによるMethemoglobin血症だったり、あるいはCOPDの患者の呼吸困難が悪くなったと思って血液検査をしたら貧血(消化管出血)や甲状腺機能低下症が見つかったり、循環器に紹介したら3枝病変でバイパス手術になったり、色々なことを1年ぐらいの外来で経験しており、一般呼吸器外来の中で好きな症候です。将来的にはCOPDばかり診ることになる可能性もありますが、毎回の外来でよく考えて診断に近づくようにベストを尽くしたいと思っています。
Boston滞在中は、Omni Parker Houseというホテルに泊まって、ここが発祥というBoston Cream Pieを食べました。あとから知りましたが、1855年からある米国で最も長く営業しているホテルらしく、とても快適でした。