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呼吸器・集中治療医Dr. Maedaの武者修行 in Alabama(16)

講座だより

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呼吸器・集中治療医Dr. Maedaの武者修行 in Alabama(16)

12/2024

「Medical ICU⑪ ICU Medications①」

日本で働いていたのがだいぶ前なので単純比較はできませんが、国や施設ごとに薬剤の使われ方にはけっこう違いがあります。思いつくままに色々書いてみようと思います。

①    鎮静・鎮痛・筋弛緩薬

人工呼吸器装着患者の鎮静・鎮痛は基本的にはPropofol持続静注とFentanyl (頓用ボーラス投与、場合によっては持続静注) でRASS -1~0 程度のlight sedationで管理します。Severe ARDSなどでより深い鎮静が必要な場合、Triglycerideが高くなってきたりしてPropofolが使いにくい場合は、KetamineやDexmedetomidineを追加したり、Fentanylに対するtachyphylaxisを考慮してHydromorphone持続静注に切り替えたりします。せん妄などのリスクを考えてMidazolam持続静注はなるべく使わないようにしていますが。普段からbenzodiazepine系薬を使用している患者などではどうしても必要になる場合もあります。筋弛緩薬はCOVID-19がほぼなくなった今でもSevere ARDSでときどき使うことがあり、Rocuroniumのボーラス投与からのCisatracurium持続静注が基本です。

気管挿管(rapid sequence intubation: RSI)の鎮静薬は、日本にはないEtomidateという薬剤をもっともよく使います。効果発現が約1分と速く、Etomidate→Rocuronium (まれにSuccinylcholine) とボーラス投与を続けるのでちょうどよく鎮静、筋弛緩がかかります。ただし効果が切れるのも速いので、患者が金縛り状態で目覚めるのを防ぐために、時間や血行動態にもよりますがRSI前~1時間後程度まではFentanyl + Midazolamの間欠ボーラス投与+/-Propofol持続静注を併用します。Etomidateは副腎不全のリスクがある以外はこれといった欠点がなく、使いやすい薬剤です。だいたいAPP teamで挿管する流れになって、ベッドサイドに行くと既にEtomidateとRocuroniumがシリンジに吸われているのでそのまま使うことがよくあります。

ただ、個人的には喘息重積発作や少しカテコラミンを使っているぐらいのSeptic shockではKetamineを使いたいと思っています。1分程度かけて静注投与するのでものすごく不安定な患者では使いにくいですが、しばらく鎮静がかかるので金縛り状態については心配が少なくてすむ(と思っている)のと、最近の単施設RCT(EvK trial: PMID: 34904190)やメタアナリシス(PMID: 38368326)でEtomidateよりも短期生存がよかったというのがあります。でもまだまだ決着はついていないようで、Etomidate vs Ketamineの多施設RCT(RSI trial)が新たに進行中です。ほかの選択肢としてはPropofolやMidazolamなどがありますが、血圧がものすごく高いときや痙攣重積状態のとき以外はほぼ使いません。

②    循環作動薬

Medical ICU、おそらく他のICUでも最もよく使うのはNorepinephrineです(米国ではNoradrenalineではなくこのように呼称されます)。前職のURMCではmcg (マイクログラム)/min, UABではmcg/kg/min (日本でいうところのɤ) で管理されており、施設ごとに最大量が決まっていました(それぞれ80mcg/min, 0.5mcg/kg/min)。少量、短期間なら末梢静脈ラインから血管収縮薬を流してもよいというのがコンセンサスになっており、UABではNorepinephrineのみ0.3mcg/kg/minぐらいまではOKです (個人的にはもっと早くからCV挿入を考えますが)。Septic shockではNorepinephrine必要量が0.2とか0.25mcg/kg/minを超えてくるとVasopressin (0.03U/min) とStress dose steroid (hydrocortisone + fludrocortisone) を加えることが多く、Epinephrine, Phenylephrineと追加していき、それでも循環が保てない場合はMethylene BlueやAngiotensin IIを考慮します。Cardiogenic shockの要素がある場合はだいたい循環器内科にコンサルトしつつ、Norepinephrine(+多くの場合、FurosemideやBumetanideの持続静注)のみでうまくいかない場合はDobutamineを5mcg/kg/minあたりで追加して、ScvO2 >= 50mmHgを目標に増減することがUABではよく行われています。対してURMCではMilrinoneの使用頻度が高くScvO2もほぼ参考にしていることがなかったのを覚えていて、このあたりは施設ごとの好みがかなり分かれると思います。

Boston最終日、空港に向かう前に少し観光しようと思い、ホテルと学会会場の途中にあったボストン茶会事件博物館に立ち寄りました。1時間でツアー形式でアメリカ独立に関係する事項を網羅していて、なかなか見応えがありました。

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