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呼吸器・集中治療医Dr. Maedaの武者修行 in Alabama(20)
講座だより
呼吸器・集中治療医Dr. Maedaの武者修行 in Alabama(20)
4/2025
「Medical ICU⑮ ICU Medications④」
今回は抗微生物薬についてです。何回も書いているような気がしますが、いつまでたっても学びが尽きません。
① 抗菌薬
Medical ICUでは言うまでもなく感染症絡みの重症患者が多いので、Broad spectrum antibiotics (広域抗菌薬:BSAと略してカルテ記載されています) は日常的に使っています。基本的にショックの患者で感染症・敗血症性ショックが除外できない場合はいったん血液・尿・喀痰培養を採取しつつVancomycin / Zosyn (piperacillin-tazobactam) を投与します。Vanc-Zosyn (「ヴァンクゾシン」) と略して呼ばれることがしばしばあります。
MRSAを含むGram陽性菌はだいたいVancomycinでカバーできますが、VREが過去に検出されている患者ではDaptomycin(肺炎でない場合)やLinezolidを選択します。Vancomycinは薬剤師で調整してくれるので手間は少ないですが、臨床経過や鼻腔ぬぐい液からMRSAが培養されるか(陰性なら、MRSA肺炎の可能性がかなり下がる)などを見ながら可能ならば早めに中止します。原因菌がMSSAと分かってCefazolinやNafcillinにde-escalationできると少し嬉しいです。重症MRSA菌血症ではCeftalorine + Daptomycinを、腸球菌菌血症ではAmpicillin + Ceftriaxoneを使うことが多いです。ちなみにテイコプラニンは日本では頻用されていると思いますが、米国では販売されていません。
Gram陰性菌のカバーは、施設によってはZosynでなくCefepimeが好まれるところもありますが、Cefepimeでは腹腔内嫌気性菌のカバーがない(だいたいMetronidazoleも併用しないといけない)こと、痙攣の閾値が下がる、Cefepime脳症の懸念などからZosynの方が余計な心配なく使えると思います(最近の臨床試験の趨勢を見てもZosynの方が使いやすそうです:ACORN trial PMID: 37837651)。例外はいくつかあり、multidrug-resistant organismが過去に検出されている患者ではそれに対応してGram陰性菌のカバー範囲を考えます。AmpC産生菌(Enterobacter Cloacae, Klebsiella aerogenes, Citrobacter freundii, Serratia marcescensなど)ではCefepime, ESBL産生菌ではMeropenem, KPC (carbapenemase) 産生菌ではAvycaz (ceftazidime-avibactam), Zerbaxa (ceftolozane-tazobactam) などを選択します。Penicillin allergyの場合は、だいたいは本当にアレルギーか不明だったり軽度の反応にとどまるものでCefepimeやMeropenemを使って問題ないのですが、アナフィラキシーの既往がある場合はAztreonamや他のbeta-lactam以外の抗菌薬を選択します。
だいたいこれで対応できるのですが、中枢神経系感染症(髄膜脳炎)の心配がある場合はZosynは髄液移行性がよくないためVancomycin + CeftriaxoneまたはCefepime + Acyclovir(だいたいListeriaのリスクファクタ―があるためAmpicillinを併用するか、beta-lactamをMeropenemにすることが多い)とすることが多いです。壊死性筋膜炎やToxic shock syndromeではClindamycinを忘れずに投与するのと、IVIGを使う場合もあります。それ以外でも、非常に重篤なショックの場合は静注Tobramycinを一発加えつつ次の手を考えるというのをまぁまぁやります。例えばCefiderocolなどの最終兵器的な抗菌薬は初回投与の前に感染症科の許可が必要なので、それまでの時間稼ぎという側面もあります。
② 抗真菌薬
MICUで最もよく問題になる真菌感染症はCandidemia (カンジダ血症) だと思い
ます。中心静脈カテーテル(透析用カテーテルを含む)が長期間入っている患者、特にTPNを投与している患者で敗血症性ショックが疑われる場合は経験的にMicafunginを開始し、T2 (カンジダのDNAを検出する血液検査) の結果が陰性であれば基本的に中止します。T2はUABに来て初めて知りましたが、結果が出るまでが1日以内のことが多く重宝しています。ただ偽陽性が多いようなのでむやみにオーダーしないように注意が必要です。Candida albicansならだいたいFluconazoleで対応できますが、C. glabrata やC. parapsilosisだとMicafungin継続になることが多いです。C. aurisだと非常にやっかいで、Micafunginも効かないケースがあります(幸い多くは遭遇していません)。
あとは、だいたいは造血幹細胞移植後の患者ですが、invasive pulmonary aspergillosis, pulmonary mucormycosisなどの侵襲性真菌感染症が問題になります。それぞれVoriconazole、Amphotericin Bが第一選択ですが、副作用などの問題でPosaconazoleやIsavuconazoniumが選択される場合もあります。アラバマ州に来てから何回か経験したのがDisseminated histoplasmosisで、Amphotericin B で治療を開始、よくなってきたらItraconazoleに変更します。いずれでも通常、感染症科コンサルトが入るので細かいところはバックアップしてもらえます。
昨年秋の写真ですが、長女の学校の遠足の付き添いでMoundville Archaeological Parkというところに行きました。ネイティブアメリカンの文化が知れる遺跡で、考古学的に重要なところだそうです。写真右奥に見えるようなmound (塚) がいくつもあり、子供達と一緒に登りました。