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呼吸器・集中治療医Dr. Maedaの武者修行 in Alabama(8)
講座だより
呼吸器・集中治療医Dr. Maedaの武者修行 in Alabama(8)
4/2024
「Pulmonary Function Test③ Diffusing Capacity」
3月も呼吸器内科外来とICUを行ったり来たりしていました。ICU回診したあとの午後に自分の外来患者の気管支鏡をしに行ったり、自分次第で自由度が高いのはよいですが、毎日3時間ほどMET (Medical Emergency Team) のカバーをしたり、週末シフトでは呼吸器内科コンサルトも兼任したり、また頼まれた研究プロジェクトの学会抄録を提出したりTax Return (確定申告) など臨床以外のタスクも重なり、ものすごく忙しかったのでもっと無理なくやっていきたいと思っているところです。
通常のPFTs (肺機能検査) の最後の要素はDiffusing Capacity (拡散能) です。肺胞内に吸入された酸素等が肺毛細血管内のHemoglobinに到達する効率を示したもので、carbon monoxide (CO: 一酸化炭素) の拡散速度で表します。一般的には微量のcarbon monoxide (CO: 一酸化炭素) と、血中に吸収されないheliumなどのtracer gasを含む気体を吸入、深吸気位での息こらえを10秒程度したあと、呼気中のheliumから肺胞容積 (VA) が求まります(helium dilution methodでのlung volume measurementと同じ)。呼気中Helium濃度が一定になったところからは肺胞内の気体のみが検出されると考え、CO濃度の減衰具合を測定します。一定の肺胞容積における時間・CO分圧あたりのCOの血中への取り込み速度、すなわち拡散係数 (KCO) 、肺胞全体での時間・CO分圧あたりにおける血中への取り込み速度 (≒DLCO ; ヨーロッパではDiffusionでなくTransferのTを取ってTLCOというようです) が求められます。KCOはDLCO / VAと表記されることもありますが、厳密には常にDLCO = VA×KCOではないため正しくありません。(PMID: 28049168)
複雑なようですが、臨床的には基本的にDLCOの値をまず見ます。60% predicted ~ LLN (lower limit of normal: 正常下限) がmildly reduced, 40%~60% predictedがmoderately reduced, 40% predicted未満がseverely reducedとなります。(PMID: 16264058) DLCOが低下する原因としては、検査前の喫煙(既に体内にCOが存在するため取り込みが低下する)、貧血(Hemoglobinの絶対数が少ない)、肺胞壁の構造的変化をきたす疾患(肺気腫や間質性肺疾患など)、肺高血圧などの肺血管疾患(血流が遅く単位時間内に肺を通過するHemoglobinが少ない)が挙げられます。逆に、肺胞出血(肺胞内にあるHemoglobinにCOが取り込まれてしまう)、高地環境(酸素が少ないため、COに結合できるHemoglobinが相対的に増加)、また機序ははっきりしませんが喘息や肥満でもDLCOは増加します。VAとKCOは場合に応じて参照します。VAばかりが低下していれば神経筋疾患による無気肺、KCOばかりが低下していれば肺血管疾患などある程度鑑別を絞り込むことができます。(PMID: 22538804)
全くの初診で画像も何もなくても、病歴とPFTである程度方向性を決められるのが呼吸器内科初診外来(特にdyspnea呼吸困難が主訴の場合)の面白いところだと最近思っています。最近では急性心不全を外来で診断して病院に送るなど、色々イレギュラーもありつつ日々学んでいます。
写真はBirmingham郊外の街のひとつであるHooverにあるUAB Medicineの建物で、ここ数ヶ月は月に1週間ほどここで呼吸器内科外来をやっています。インド出身の医師が見学に来ていたりして賑やかでした。家からも近くきれいな所で気に入っていたのですが、残念ながら来年度はローテーションがないようです。