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呼吸器・集中治療医Dr. Maedaの武者修行 in Alabama(23)
講座だより
呼吸器・集中治療医Dr. Maedaの武者修行 in Alabama(23)
「Chronic Obstructive Pulmonary Disease ④Diagnosis」
例年通り、6月末は一時帰国中に京大救急科にお伺いしてお話をさせていただきました。ありがとうございました。日本は相変わらず食事も美味しく、色々と快適なことが多く毎回楽しみにしています。飛行機での移動は大変ですが…今回は直前でBirmingham → Dallas間の便がキャンセルになり、急遽Chicago, San Diego, 成田、そして伊丹と4回飛行機に乗って何とか帰国できました。
京大ではTele-ICUのお話をさせていただきましたが、メインは呼吸器内科になりつつあります。今年度 (2025年7月から) は、COPDの専門外来の枠に空きが出たのでそれを埋める形で外来を増やすことになりました。一般呼吸器内科も楽しいですが、やはり研究を進めるためにはそれに沿った形で臨床業務を集中させていったほうが効率がよいので、今後も状況に応じて何かをやめる選択をしていかなければならないのだと思います。
そういうことで今回はCOPD、特に診断について簡単に書こうと思います。GOLD ReportではCOPDを ”heterogenous lung condition characterized by chronic respiratory symptoms due to abnormalities of the airways and/or alveoli that cause persistent, often progressive, airflow obstruction” と定義しており、要は気道・肺胞の構造上の変化により呼吸器症状・閉塞性換気障害を来す病態ということです。診断の確定には呼吸器症状、原因・リスクファクタ―の存在(先進国ではたばこ喫煙が最多、バイオマス燃料他のrespiratory toxinへの曝露も含む)、そして呼吸機能検査で閉塞性換気障害がみられること(Post-bronchodilator FEV1/FVC < 0.70)の全てを満たしている必要があるとしています。割とよく一般呼吸器内科外来に紹介されてくる患者で、喫煙歴があって呼吸器症状があるのでCOPDとして何らかの吸入薬を処方されている方がいますが、Spirometryをとってみると診断基準を満たさないので「COPDではないので他の原因を考えましょう」となることがあります。入院症例でもresidentや医学生に、「この患者はCOPDか」「Spirometryのデータがないから今は分からない」といった短時間レクチャーをやることもあります。
ところが最近はSpirometryで明らかな閉塞性換気障害がない場合、あるいはSpirometryのデータがない場合でもCOPDと診断したほうがよいのではないか、と言われてきています。米国の多施設前向きコホートであるCOPDGeneからは多くの疫学的データが出ていますが、その中のDiagnosis Working Groupが2019年、原因曝露 (10 pack-year以上の喫煙歴)、症状(mMRC score >=2 または慢性気管支炎)、Spirometry(FEV1 / FVC < 0.70 または FEV1 <80% predicted), CT画像 (肺気腫、気道壁肥厚、gas trapping) の4つからなる診断基準を提唱しました。原因曝露だけの場合はNo COPD, 原因曝露+1つの場合はPossible COPD, 原因曝露+2つの場合はProbable COPD, 全て当てはまる場合はDefinite COPDというようにカテゴリー分けがなされ、順にFEV1の減少率や死亡率が増加するということでした(PMID: 31710793)。
そして2025年、同グループとカナダのCanCOLDコホートから、新しい診断スキームが提唱されJAMAに掲載されました。上記と若干異なるものの、Spirometry (FEV1/FVC < 0.70またはlower limit of normal: major criterion) だけでなく、5つのminor criteria(①CTでの軽度以上の肺気腫、②CTでの気道壁肥厚、③呼吸困難(mMRC score >=2), ④Quality of Life (SGRQ score >=25 またはCAT score >=10), ⑤慢性気管支炎の症状)を定め、major + minor 1つ以上またはminor 3以上を満たすものをCOPDと診断するというものです。Spirometryのみよりも、この新しい診断スキームを用いたほうが多くの患者が含まれ、肺機能、COPD増悪、死亡率の高いグループを正確に同定できるとの結果です(PMID: 40382791)。今後何がスタンダードになってくるか分かりませんが、Spirometryでの閉塞正換気障害がなくてもCOPDとして早期に治療を始めることで予後の改善につながるのではないかと期待しています。
一時帰国中は京都に来るのが一番遠出だったりするのですが、子供も大きくなってきて関西の色々な所に遊びに行けるようになってきました。この日は淡路島の南西部でイルカを見れるということで行ってきて、リゾート地が増えてきているなと感じました。