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「第12回福島災害医療セミナー上級コース」(福島医大)

講座だより

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 「第12回福島災害医療セミナー上級コース」(福島医大)

昨年6月の緊急被ばく医療セミナーに続いて、福島県立医科大学災害医療総合学習センターで開催された上級コースに参加してきました。 前回よりもより放射線災害、緊急被ばく医療に即した内容になっていました。(参加者:医師10名、看護師6名、診療放射線技師7名、救急救命士1名、オブザーバー4名)

第一部(1月28日、29日)
1月28日
新幹線を乗り継いで到着した福島駅で出迎えてくれたのは、5メートルあまりの巨大な「健脚わらじ」。毎年2月開催の「福島わらじまつり」では長さ12メートル、重さ2トンのわらじが奉納されるそうです。

 

福島医大に到着すると、いつもお世話になっているスタッフの先生方、後ろの座席には前回セミナー同期のKさんがおられ、第一声は「ただいま!!」、で初日がスタートしました。

福島第一原発内の救急医療と所内労働者に対する労働保健活動について、長谷川先生(放射線災害医療学講座)が講義をされました。 重症外傷患者の診療、事故再発予防に尽力されておられる先生の貴重な症例に学ぶことはとても多く、高度に被ばくした重症患者を想定して訓練をする必要性を十分認識しました。

次の講義は、楽しみにしていた「かーちゃん弁当」をほおばりながら安井先生のランチョンでした。

被災された方々の避難所や仮設住宅での生活と健康問題についての解説でした。 震災で自分が経験したことだけでは計り知れない、厳しい現状についてのお話に大変考えさせられました。 それでも元気に頑張っているかーちゃん達が作って下さったお弁当に、沢山の元気をもらいました。

午後は、①被ばく線量測定演習、②避難所設営机上演習、の2グループに分かれて演習中心のプログラムでした。 参加した②では、災害発生から一次避難所にいる自分の行動をシミュレーションするものでした。 他の避難所チームと情報をやりとりする作業は、具体的で大変役立つ内容でした。

1日目の最後は中谷内一也先生(同志社大学心理学部)によるリスク認知についての講義でした。 リスク認知について社会心理学実験や2因子モデルなどの解説が行われ、続いてのワークショップでは信頼を獲得する方法として「自発的運命共有化」という関係について受講生同士で活発な議論が交わされました。

無事に初日が終了し、受講生達が待ちに待った懇親会が地元の居酒屋さんで開催されました。海の幸山の幸に舌鼓を打ちつつ、酒を酌み交わし熱い思いを語り合いながら、福島の夜は静かに更けていきました。

1月29日
2日目は原子力災害慢性期の地域保健について宮崎先生(放射線管理学講座)から、被災地での保健活動、健康問題がわかりやすく解説され、今後の地域医療の課題を示されました。

里山の放射性物質については、小林達明先生(千葉大学大学院園芸研究科)から講義がありました。 川俣村での除染や里山再生活動、実測値と航空機モニタリングによる空間線量率分布の差異、森林生態系反応実験におけるセシウム137の移動形態などについて学ぶことができました。

そして、Aram Avetisov(ベラルーシ医科大学)、Tamara Sharshakova(ゴメリ医科大学)、Alma Nurtazina(セメイ州立医科大学)の各先生方による講義では、チェルノブイリ原発事故で高濃度汚染を受けたゴメリ州、核実験で影響を受けたカザフスタンのセミパラチンスクの現在について紹介され、ガンなどの疾病、土壌、農作物への影響や社会的背景についての解説が行われました。 受講生との討論会では活発な質疑応答が行われ、質問をした受講生には講師の先生方から土産品がプレゼントされました。(ロシア語通訳:長崎大学高橋純平先生)

第二部(1月30日)
最後は被災地現場視察として、帰還困難区域内の現状とともに東京電力福島第一原子力発電所を訪問しました。 Jビレッジで東電職員からオリエンテーションを受け、入退域管理施設、救急医療室を見学しました。 その後、原発敷地内の汚染水処理施設「アルプス」、1号機から4号機、旧医療室、津波被災現場(破損タンク、防波堤など)、免震重要棟を専用バスに乗車したままで視察を行いました。 現場はまだ被災した直後の様子が感じ取れるほど生々しいがれきの山が残されており、きわめて高線量の場所も通過しました。 前回のセミナーよりも、より広く、深い知識と考察を求められた3日間でした。 今後緊急被ばく医療体制の整備に向けて様々な研鑽を積んでいくことはもちろん、被災者の方々の様々な思いを常に心にとめておかなければならないと感じました。

(救急医療室、写真は東京電力提供)
(文責:森)

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