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Dr Maedaのニューヨーク奮戦記(15)
講座だより
Dr Maedaのニューヨーク奮戦記(15)
11/2018
「ID – Infectious Disease」
アメリカでは感染症の専門家が多いです。IDと略して呼ばれています。臨床留学して感染症を学ぶ日本人医師は多く、アメリカが依然として臨床教育が進んでいる分野のひとつだと思います。疾患層も豊富で、日本と比較するとHIV陽性者が圧倒的に多いと感じますし、IV drug userの感染性心内膜炎、糖尿病足壊疽からの骨髄炎などもよく診ます。あと地理的にNortheastはLyme病があります。実際は、一般内科としては少し複雑な症例になるとID consultを気軽に呼んでしまう傾向がありますが、よくある感染症に関しては自信をもって管理できるようになりたいものです。
入院診療に偏っていますが、一般内科レベルでよくある感染症というと日米であまり違いがあるわけではなく、抗菌薬の選択も大きくは違いません。基本的には現在の勤務先ではCAP (市中肺炎) ではceftriaxone + azithromycin、UTI (尿路感染症) ではceftriaxone、腹腔内感染症ではciprofloxacin + metronidazoleを投与することが一般的です。マクロライド系、フルオロキロノン系はQTcを延長させ不整脈を起こすことがあるので、ベースラインの心電図を確認しQTcが500ms以上の場合はたとえばdoxycyclineなど別の薬剤を使うようにします。抗精神病薬、制吐薬やmethadoneなど他にもQTcを延長させる薬剤が多いのでQTcには非常に気を使っています。
MRSA (メチシリン耐性黄色ブドウ球菌) やESBL (extended-spectrum beta-lactamase) 産生Gram陰性菌などが多いので、リスクファクタ―のある症例ではより広域な抗菌薬を最初から使います。入院になるレベルの蜂窩織炎では問答無用でvancomycinを投与するのは印象的でした。Vancomycinを病棟で使わない日はなく、自分たちでトラフ値をみて用量調整を行っています。広域になりすぎないように、ID teamの医師・薬剤師が特定の薬剤に対してはapprovalを出すことが制度化されています。Cefepime, piperacillin/tazobactam (Zosyn), meropenem, levofloxacin, tobramycin, linezolidなどです。
日本にない薬剤はいくつかあります。Nitrofurantoinという薬剤は膀胱炎でよく使われます。nafcillin, oxacillin, dicloxacillinといった抗MSSA薬 (メチシリン感受性黄色ブドウ球菌) はMSSAが同定された場合ぐらいしか使わず意外と便利さを感じることはあまりありません。Ertapenemというカルバペネム系薬があり、緑膿菌には効かないのですが1日1回の投与でよいため、緑膿菌以外のESBL産生Gram陰性菌の感染症ではよい選択肢です(ただし薬価が高い)。抗MRSA薬の奥の手として、第5世代セファロスポリンのceftarolineという薬もありますが基本的にはvancomycin, linezolid, daptomycinで対応できることが多いです。逆に日本でよく使われているセフメタゾール、セフォペラゾン・スルバクタム(スルペラゾン)、フロモキセフ(フルマリン)などは他剤で事足りるため使われません。
冬になるとインフルエンザはこちらでも問題になりますが、抗インフルエンザウイルス薬は基本的にoseltamivir (Tamiflu) しか使わず、日本人はインフルエンザに敏感 (?) であることを実感します。Baloxavir (Xofluza) が最近認可されたようですが、どうなるでしょうか?
ほかに日米で少し違うと感じたのは、日本の一部の (?) 研修病院のように治療開始時に研修医が自分でGram染色をして抗菌薬を決めるということはなく、それ以外の症候・検査結果に基づいてempiric therapyを開始し、検査室からの結果によって適宜変更します。また、有名な話かと思いますがCRPは特異度が低いため骨髄炎などの病勢評価の目的を除いて基本的に測定しません(それでも結局「白血球が高いから感染症」という意見がまかり通る場合もあります)。余談ですが、日本でよく略して書かれているCTRX, ABPC, VCMなどはこちらではあまり通じず、カルテ記載のときはスペルアウトしないといけません。
一長一短あると思いますが、結局郷に入っては郷に従え、ということでいまではこちらの感染症診療に慣れています。感染源不明な症例に対して救急外来でVancomycin + cefepime + azithromycin + metronidazoleが投与されて入院になってくるときはさすがにやりすぎだと思いますが、これがアメリカなのだと思うことにしています。
だいぶ前ですが、USオープンの練習を見に行ってきました。開幕前の1日開放日で、とても賑わっていました。