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Dr Maedaのニューヨーク奮戦記(20)
講座だより
Dr Maedaのニューヨーク奮戦記(20)
4/2019
「Difficult Patients」
アメリカで医療をしていて大変なことのひとつは英語ですが、英語以外にもいろいろな理由で難しい患者さんを診ることが多いです。
①Language Barrier
ニューヨーカーの速くてくだけた英語もやっかいですが、アメリカに住んでいる人が全員英語を話すわけではありません。Spanish, Chinese(標準中国語であるMandarinではなく、Cantonese, Toiseneseなどの方言がメインの人が多い)をはじめとしてときにはPolish, Russian, Arabicと世界各国の言語が飛び交います。医療通訳をリクエストするのは患者の権利として保障されており医療機関は通訳サービスを無料で提供することになっています。基本的に電話でInterpreter (通訳) を呼び出してスピーカーホンにして会話しますが、正確に伝えるのはやはり難しいし時間がかかります(Toisenese interpreterが電話に出てくるまで30分かかったこともあり、珍しい言語だとさらに不便になります)。日本語が役に立つことも数回ありましたが、圧倒的に少ないです。
また、難聴の患者さんのために手話通訳を使用する場合もあります。難聴かつSpanish Sign Language interpreterが捕まらなかったり、統合失調症や認知症のためコミュニケーションが不可能という患者さんを診たことがあり、非常に困難です。
②Nonadherence
我々が診る患者さんはどちらかというと経済的に恵まれておらず、ヘルスリテラシーも低い人が多いです。薬を飲まない、何の薬を飲んでいるか把握していない(「お薬手帳」みたいなものもありません)、次回の外来や検査の予約をとらずに帰ってしまう、そもそも外来に現れない(”no show”)、などの問題が日常茶飯事です。多くは公的保険であるため医療資源へのアクセスがよくないことがこれに拍車をかけています。当日に外来予約をとるのは困難ですし、薬剤もカバーされていないと保険会社から拒否され患者・医師ともに電話で保険会社とやり取りをしないといけません。
また、nonadherenceによるCHF、COPDなどの増悪も多く入院になるケースが多いです。病院から患者さんが退院する際はinternが外来に電話をかけて次回予約を極力とりますが、no showの率は残念ながら高く悪化して再入院というのをしばしば目にします。
③Psychosocial Problems
何度も書いているような気がしますが、日本にいたときよりもホームレス、薬物依存、精神疾患の患者さんを診る頻度が高い印象です。20代女性のアルコール性肝硬変、慢性腰痛症に対して友人のoxycodoneを飲みすぎて急性呼吸不全になった中年男性、入院したのに勝手にいなくなってしまう(”elope”)ホームレスの患者さんなどが思い出されます。屋外で暮らすホームレスの人にはshelterに行けるよう書類を手配し、薬物依存の人にはdetoxをすすめ、コミュニケーションが不可能な患者さんには精神科コンサルトも適宜行い、とできるだけのことをしますが、根本的な問題の解決にはなかなか至りません。
うつ病も内科一般外来でスクリーニングをするからでしょうが有病率は非常に高いです。不思議なことにAnorexia nervosa (神経性食思不振症) だけは2年弱研修してきてまだ1回も遭遇していません。
さまざまな人が集まって暮らしている国だからこそ社会も医療も複雑で、毎日興味深いです。
春は学会が多く、3月はSociety of Hospital Medicine (SHM) でWashington DC近くの観光地であるNational Harborに行ってきました。Hospital Medicineはアメリカで発展を続けている分野です。