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Dr Maedaのニューヨーク奮戦記(32)

講座だより

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Dr Maedaのニューヨーク奮戦記(32)

4/2020
「COVID-19 in NYC」

3月になり、SARS-CoV2感染症(=COVID-19)が猛威を振るっています。アメリカで最初の症例 (Holshue ML, DeBolt C, Lindquist S, et al. First Case of 2019 Novel Coronavirus in the United States. N Engl J Med. 2020;382(10):929-36) がSeattleで1月20日に確認されてから1か月強経った3月1日、NY州でも1例目がManhattanで確認されました。日本でもNYCの現状はよく報道されているようですが、その後1か月で患者数は爆発的に増加し、3月いっぱいでアメリカは中国、イタリアの検査陽性者数を抜き、世界最多となりました。NY州には約2000万人の人口がありますが、半数かそれ以上が最終的に感染し、ピーク時に病床は14万、人工呼吸器は3-4万必要とのことで既存の病床をすべてCOVID-19患者用にしても全く足りないという予想がなされました。

 

3月中にイベントの類、学校、外食(テイクアウトとデリバリーを除く)が次々と禁止になり、Social Distancingが奨励され、3月22日には”New York State on PAUSE” なる州知事令により州民が不要な外出をしないことを徹底、Essential Workerを除くすべての業種で出勤が禁止になりました(自宅勤務はOK)。陸軍を動員してコンベンションセンターやUSオープンの会場を臨時病院としてオープン、海軍の病院船 ”Comfort” を動員、Defense Production Actが大統領により発動されGeneral Motorsに人工呼吸器の製造が命じられました。医療従事者はもちろんEssential Workerであり、人がいなくなり様変わりしたManhattanまで今も通勤しています。今も家族と暮らしていますが、外に出るのは自分だけで仕事帰りに食料品の買い出しをする以外は家にこもっています。ありがたいことに娘の通うPreschoolではオンライン授業をしてくれるので退屈せずに済んでいるようです。

 

増加する医療需要に対応するべく、既存の病院には50-100%の増床が命じられました。Central Parkなどにトリアージテントが張られ、病院の近くに即席のMorgue (死体安置所) を作る病院も現れました。勤務先のMount Sinai Beth Israelは縮小をすすめていた200床程度の病院でしたが、昔は800床以上あったことが幸いし (?) 毎日のように新しい病棟・ICUがオープンしています。一般外来・待機的手術は全て延期またはVideo Visitとなり、救急・内科・ICUに人員を確保するべく大規模なシフトの変更が行われました。一般病棟は精神科、放射線治療科、皮膚科などのResidentを内科ローテーターとして転用し、内科Residentは主にICU患者の診療に充てられました。待機手術のなくなった外科や麻酔科の余剰人員はProcedure team (Central Line等の手技のみを行う) やICUの担当です。さらに関連他院・州外から呼び寄せた臨時職員も多数働いています。

 

私はといえば、3月は外来患者に処方を電話越しで行う仕事、そのあとはJeopardy (病欠者のカバー要員) でした。今は平常時の4倍に増床したICUでCOVID-19患者の診療に当たっています。入院患者の9割弱がSARS-CoV-2陽性であり、陰圧室はもちろん全く足りないのでCOVID病棟・COVID ICUを複数作って数少ない陰性の患者を個室に入れている状態です。PPE (personal protective equipment) も不足しているためN95マスクとフェイスシールドは使いまわしています。軽症者を入院させている余裕はないため自宅隔離とし、酸素が必要な中等症以上が入院しHydroxychloroquine, Azithromycinの投与、HFNCやNIVが必要な場合はDexamethasoneやTocilizumab、挿管に至った重症例ではRemdesivir, Sarilumabなど適切に使用するようID (感染症内科) が全例で治療の舵取りをしています。最近はCOVID-19では過凝固に傾くということから低分子ヘパリンであるEnoxaparinを使用し始めました。未だに効果が実証された薬剤がないのがもどかしいところです。また、STEMIには通常のPCIでなくtPAを使用するなど他疾患の診療にも大きな影響が出ています。

 

この原稿を書いている4月中旬の時点でNY州ではようやく検査陽性者数が減少に転じましたが、死亡例は毎日数百人にのぼりまだ増え続けています。病院でも毎日のようにRapid Response、Hospital Codeが聞かれ次々と重症患者が亡くなっている状態で、また救急隊は蘇生しなかったCPA例は搬送しないことになったため病院までたどり着かずに亡くなっているケースも多数ありそうです。家族は死の間際まで面会に来ることができず、COVID患者は孤独に戦っています。同僚のResidentも何人も感染し交代で自宅隔離しています。恐ろしい疾患です。それでも行政の強力なリーダーシップと、毎日寄付される食事などのおかげで希望をもってやっています。日本も大変な状況になりつつありますが、少しでも被害が少なくなるよう一人ひとりが気を付けて過ごしていただきたいと思います。

写真は病院の隣に設置された軽症者用トリアージテントです。

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