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Dr. Maedaの呼吸器集中治療科フェローシップの記録 (24)
講座だより
Dr. Maedaの呼吸器集中治療科フェローシップの記録 (24)
6/2022
「Medical ICU⑧Advanced care planning / End-of life care」
前回に引き続きICUにおける終末期ケアに関わるトピックとして、Advance care planning (ACP) や終末期抜管(英語ではterminal extubation, palliative extubation, compassionate extubationなどといわれます)について扱ってみたいと思います。厚生労働省が「人生会議」という訳語で日本にもACPを普及させようとしたり(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02783.html)、複数学会が終末期ケアの指針を発表したりする(https://www.jsicm.org/pdf/1guidelines1410.pdf)といった動きがあるようなので現在は違うのかもしれませんが、私が日本で勤務していた頃(早いもので6-7年も前になってしまいました)は、少なくとも米国ほどドラスティックに治療行為の中止を行っていた記憶はありません。
ACPは患者・家族がどのような医療行為を希望するかを事前に決めておくプロセスのことを指し、その結果作成された文書全般をAdvance directive (事前指示) といいます。Advance directiveには、心神喪失時に患者に代わって医療行為に関わる決定をする人を定める文書であるHealth care proxy (“医療委任状”), 心神喪失時にどのような医療行為を希望するかを記載したLiving willが含まれます。これらは第3者による証明を含む法的な文書で、医療機関に登録することによって効力を発揮しますが、DNR (Do not resuscitate) / DNI (Do not intubate) オーダーとは厳密には異なります。実際に医療行為のオーダーをするのは医師をはじめとするhealthcare providerであり、以前取り上げたように、悪性疾患や多臓器不全で死期が近いと医療者が感じているケースではFamily meetingを行うなどしてgoals of care (治療のゴール) を話し合います。この際にAdvance directiveがあると大変役に立ちます。最終的に患者本人が希望する(心神喪失状態の場合、希望すると推測される)治療方針を確認し、MOLST (Medical order for life-sustaining treatment) にAttending physicianあるいはNurse practitionerがサインすることでいわゆる “full code” “DNR/DNI” “DNR but not DNI” といったオーダーが有効になります。hospice患者等いわゆる延命治療を行わず苦痛の除去のみを行う場合は、”Comfort measures only (CMO)” にチェックを入れるようにします。ただ、州によっても医療倫理に関連する法律に違いがあり、細かい手続きは異なるようです。
米国のICUでは、治療に反応せず死亡に至ることが明らかである場合は患者のQoLを考慮してCMOにすることを勧めることが多いです。DNR/DNIにするだけでなく、新たにQoLの向上に寄与しない医療行為を開始しないようにしたり(withholding: 治療の差し控え)、中止したりします(withdrawal: 治療の中止)。たとえば、不要な血液検査、抗菌薬投与経腸・経静脈栄養、輸液・輸血、腎代替療法などです。家族がお見舞いや宗教的儀式を希望することが多いので、人工呼吸・循環作動薬などの生存に不可欠な治療は継続しておき、家族の準備ができた段階で看取りのプロセスに移行します。具体的には、挿管されている患者ではmidazolamとfentanyl (あるいはhydromorphone) の持続静注(+ボーラス静注)を使用して十分に鎮静をかけた状態で抜管し、同様の持続静注を継続します。循環作動薬の持続静注も同じタイミングで中止することが多いです。モニターはいわゆるサイレントモードにして家族で最後の時間を過ごしてもらい、心電図波形がasystoleを示した段階で部屋に戻って死亡確認するという流れが多いです。もちろん気管切開・胃瘻・療養病院転送になるケースはありますが、「家で自立した生活を送りたい」という考えの人が多いためか、挿管まではしても最終的に気管切開を行わずCMO・終末期抜管になる場合が多いです。日本では終末期抜管は今でも稀であると理解していますが、今後徐々に増えていくのではないでしょうか。
5月はATS (アメリカ胸部学会) があり、San Franciscoに初めて行ってきました。3年ぶりの現地開催で、ポスター発表、交流会など盛りだくさんで楽しかったです。Golden Gate Bridgeにも少し立ち寄ることができました。