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呼吸器・集中治療医Dr. Maedaの武者修行 in Alabama(2)

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呼吸器・集中治療医Dr. Maedaの武者修行 in Alabama(2)

10/2023

「VISA」

9月後半は、Birmingham郊外のGardendaleという町にあるUABの施設で一般呼吸器内科外来の欠員を埋めるため何度か働きました。今月からはUAB Hospital附属の外来であるKirklin Clinicに毎週の外来を持つことになっているのと、関連病院であるRussell Medicalでの呼吸器内科外来や、UAB Hospitalでの呼吸器内科コンサルトやMICUのローテーションが組まれています。大学病院のFaculty (教員) をしている医師の中にはグラント (研究費) を獲得して研究重視の生活を送っている人もいますが、私はまだ研究で給料を賄えるような立場ではないので、Clinical Facultyとして患者にベストな診療を行うことを通じて施設の収益をあげることが求められています。今年度の残り、10-5月までは休暇を除くと4週間のうち3週間は臨床ローテーション+14回の週末日直で、かなり忙しい部類に入ります(年中担当患者がいる日本の制度との単純比較はできません)。

就職活動は臨床・研究を両方続けるために大学病院をメインに行ったのですが、数ある施設の中からUABに就職した経緯として、ビザ関連の制約があったことが大きいです。外国人医師がResidentとして渡米するためには就労ビザが必要なのですが、J1ビザとH1bビザの2種類から選びます。J1ビザはExchange Visitorビザともいわれ、ECFMG (Educational Commission for Foreign Medical Graduates) がスポンサーとなり、対象は研修医(Resident, Fellow)のみ、医学研修が主な目的で修了後に母国に帰国することを前提としています。H1bビザは雇用主が直接スポンサーとなり、グリーンカード(永住権)が許可されるまでの期間の滞在をサポートすることが主な用途というように理解しています。Fellowshipに進む際にはJ1ビザのほうが採用する施設が圧倒的に多いので有利なのですが、その後の米国での就職のためには ”two year home country residence requirement” が障害となってきます。これはその名の通り、J1ビザでの研修修了後に母国に2年間居住してからでないと米国での就労を認められないというものです。この帰国義務を免除(waiver)することのできる方法はいくつかありますが、だいたいは医師・医療の提供が不足している地域(healthcare professional shortage area / medically underserved area (HPSA/MUA))で3年間、80%以上の時間を臨床医として働くことが条件になっています。Conrad 30という州ごとに30人/年までを採用するプログラムが最も一般的ですが、Primary Care領域の医療者が優先となるため、専門診療科の枠は年に10名以下という州が多いです。さらに施設側の要件として、求人等を出しているにもかかわらずJ1 visa waiver以外の人員が確保できなかったことが求められます。Appalachian Regional Commission (ARC), Delta Regional Authority (DRA) など、他にもスポンサーしてくれる組織は存在していますがだいたい同じような要件を課しています。

私は2017年のマッチ確定後にUSBLE STEP3を受験しましたが、これがH1bビザの要件の一つであるため、渡米に間に合わせるために必然的にJ1になりました(いずれにしてもその年はトランプ政権の影響でH1bビザの発行が遅らされており、J1でないといけませんでしたが)。Fellowshipを行ったUniversity of RochesterはH1bは採用していないため、大きな分岐点であったことは間違いありません。就職活動にあたっては、HPSA/MUAに該当する大学病院・関連施設で求人の出ているところを地道に探して応募しましたが、J1 visa waiverの制約は大きく、面接まですすんだのはUABともう1つの施設だけでした。Conrad 30の30人の枠に入れるのを待つため、いったんO1aビザ (extraordinary ability) に切り替えて、waiverの開始を待っています。O1aで雇用されている間はtwo year ruleの縛りを先延ばしにできるというメリットがありますが、ビザであることには変わりないのでNIH (national institute of health) の大型研究費への応募は制限されたままです。うまくいけば来年度からJ1 visa waiver(その間はH1b)、終了後は臨床80%以上の要件がなくなるので研究等により力を入れられるのではと期待しています。

参考:
Visa category: https://travel.state.gov/content/travel/en/us-visas/visa-information-resources/all-visa-categories.html
HPSA map: https://data.hrsa.gov/maps/quick-maps?config=mapconfig/HPSAPC.json
Conrad 30: https://www.uscis.gov/working-in-the-united-states/students-and-exchange-visitors/conrad-30-waiver-program
ARC: https://www.arc.gov/j-1-visa-waivers/

UAB Gardendale ClinicはBirminghamから北に12マイルのところにあり、救急外来を併設しています。地元の人々にとって重要な施設です。最後の日は忙しくて遅くなりましたが、実質的に初めての1人外来で大きな問題なく終わったので良いスタートになりました。

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