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Dr. Maedaの呼吸器集中治療科フェローシップの記録 (11)

講座だより

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Dr. Maedaの呼吸器集中治療科フェローシップの記録 (11)

5/2021
「Interstitial Lung Disease」
日本では間質性肺炎 (Interstitial Pneumonia: IP) ということが多いと思いますが、アメリカではInterstitial Lung Disease (ILD: 間質性肺疾患) が一般的な呼称です。URMCはUpstate NY唯一のILD center of excellenceであり、BaffaloやSyracuseなど車で1時間半程度離れたぐらいの所からも患者が紹介されてきます。
ILDはかなりとっつきにくい疾患だと思いますが、ある程度診療にはセオリーがあります。自分の一般呼吸器外来では原因不明の咳嗽や呼吸困難で紹介初診となる患者が多く、聴診で吸気時にFine Cracklesがある場合、PFTでTLC およびDLCOの低下がある場合はILDを強く疑います。高解像度 (High Resolution) 胸部CT: HRCTを撮影すると一定の頻度でILDの所見が得られます。ILDは原因が特定できる場合(感染症、膠原病肺 Connective Tissue Disease-related ILD: CTD-ILD、過敏性肺炎 Hypersensitivity Pneumonitis: HP、放射線肺障害、薬剤性肺障害など)とできない場合(特発性間質性肺炎 Idiopathic Interstitial Pneumonias: IIPs、サルコイドーシスなど)があり、まずは入念な問診を行い呼吸器症状の時間軸、随伴症状、アスベスト等を含む職業・曝露歴、喫煙歴やペットの有無を含む社会歴、薬物歴を聴取します。検査は一般的な血液・尿検査に加え、膠原病のスクリーニングとして抗核抗体 (Antinuclear Antibody: ANA)、Rheumatoid Factor, 抗CCP抗体は最低限、他にはCK, Aldolase, 抗Jo-1抗体、抗Scl-70 / Centromere抗体、抗SS-A/SS-B抗体などを症状に応じてチェックします。他には心電図と、場合によってはBNP, 心臓超音波検査も行い心不全の要素を除外します。原因がある場合はこれでだいたい引っかけることができます。日本では家屋が木造か、羽毛布団の有無なども重要な問診項目ですが、アメリカではこれはあまり問題になりません。NYCでは9/11の粉塵曝露に関連したHPを、Rochesterでは電子タバコ関連肺障害 (e-Cigarette and Vaping Associated Lung Injury: EVALI) を経験しました。またCOVID-19後のILDというのも最近コンサルトでよく診ます。
治療は、CTD-ILDであればRheumatologyに紹介しつつステロイドを開始、HPや薬剤性肺障害であれば原因除去を行いつつステロイドを開始、といった感じです。どのILDでも共通ですが、PFTは数か月おきに再検し肺機能の悪化がないかをモニタリングします。
初期評価で原因がはっきりしない場合、IIPsと暫定診断します。IIPsには、ILDの中で最も頻度の高く予後の悪い特発性肺線維症(Idiopathic Pulmonary Fibrosis: IPF)を含む6種類のILDが含まれます。診断の絞り込みは臨床・画像・病理所見を総合して、ILDの診療に熟練した呼吸器科・放射線科・病理診断科の医師によるMultidisciplinary Discussion (MDD) で行うことがガイドラインで推奨されています。ただしHRCTでUIP (usual interstitial pneumonia) の所見がある場合は肺生検なしでIPFと診断してよいことになっています。具体的には、肺野末梢・下部優位の小葉間隔壁の肥厚Interlobular Septal Thickening、牽引性気管支拡張Traction Bronchiectasis、蜂巣形成Honeycombingがあること、すりガラス状陰影Ground Glass Opacity: GGOや浸潤影Consolidation、結節Noduleがないこと、などです。
IPFと診断した場合、肺移植以外に根本的な治療法はなく予後は5年前後ということになっていましたが、現在は抗線維化薬NintedanibとPirfenidoneがあるためもう少し長い期間が望めると考えられています。また、2019年のSENSCIS試験 (PMID: 31112379)とINBUILD試験 (PMID: 31566307) の結果を受けて、強皮症SclerodermaによるILD、原因に関わらず”Progressive Fibrosing Interstitial Lung Disease”にNintedanibの適応が拡大されました。今後も新たな治療薬が登場してくるかもしれません。

Rochester発のスーパーマーケットチェーンのWegmansです。お惣菜、ケーキ、薬局やハンバーガーレストランも併設してあり、こちらの生活に欠かせないお店です。

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