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共働き医師に対応するために ~人事担当者としての工夫と課題~

講座だより

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 共働き医師に対応するために ~人事担当者としての工夫と課題~

女性医師の増加に伴い、夫婦ともに常勤の就労を行う「共働き医師」が急速に増加しており、当講座においてもすでに既婚者の4割以上が「共働き」状態にあります。
共働き医師の増加により、医師の性別を問わず、養育や介護など「社会的弱者」の扶養義務と、医師としての責務との両立が可能である環境の整備が望まれています。

「共働き世帯」といっても、同居親族のあるなしで状況は大きく異なりますが、所謂「共働き2代目・3代目」問題もあり、 同居親族によるサポートが困難なケースが増えていることから、過去に比して共働き家庭の労働環境はむしろ増悪している可能性があります。

一例を挙げると、「共働き世帯」における特徴として、「扶養のためのrush hour」の存在があり、 当講座においても、time keeperを配置する、カンファレンス等がこの時間帯に重複しないように留意する、などの工夫を行っています。

このように私たちは、「医師個人」ではなく、むしろ「世帯全体」を支える、という視点が重要と考えています。
一方では、特に30代以降の医師においては「共働き」「非共働き」といった世帯環境による特性が大きく異なり、このことが問題をさらに複雑にしていると考えられます。

誤解を恐れずに個人の主観をもとにお話しさせていただくと、現状の給与体系(高い基本給+安い手当)は画一な勤務条件を前提としているため、 金銭的なインセンティブがつけにくくなっており、金銭的な理由により「共働き」「非共働き」といったグループ間での利害対立を起こしかねない状況に陥っていると思います。
とくに、我が国は就学後の児童に対する金銭的補助が先進国の中で最低であるため、 就学後の児童を有している非共働き世帯に対しては十分な金銭的配慮を行う必要があると考えています (40代における「金銭的な問題による離職のリスク」も重大な問題であると思います)。
単独の講座だけでは変革が難しい点もあるのですが、医師職の給与体系・勤務体系に如何に柔軟性を持たせるかが今後の大きな課題ではないかと考えています。

また学術的な面においても、学会・研究会やoff the job trainingなどは、移動も含めると長時間の拘束を要するため、 問題となることが多いようです。幸いにもIT技術の向上(Skypeなどの対面式コミュニケーションツールや、メール・データベースの中央サーバー化)により、 論文作成などの研究活動は比較的SOHOが可能であり、時間的制約が大きい世帯にも参加が容易であると考えています。 今後は(市販の)IT技術を利用した研究活動のSOHO化という観点から検討を加えてみたいと考えています。

まとめとして、

  • 共働き医師の増加により、今後は単に女性医師単独の支援にとどまることなく、性別を問わず医師の所属する世帯全体を支援し、 その状況に柔軟に対応できるシステムを構築していくことが重要と思います。
  • シフト勤務制の確保・勤務時間等の工夫・研究などにおけるインターネットを用いたSOHO の推進などに加え、 人事の柔軟性の確保・賃金体系の是正による時間外勤務に対するインセンティブの増加など、病院や大学講座・学会などのシステム変更にまで 踏み込んだ形での改革が求められると考えています。

救急医療は、労働集約性が高く、シフト勤務に適していることなどから、時間的な制約の多い共働き世帯にも十分適応できる分野と思います。
個人的な話で大変恐縮なのですが、私自身も、「常勤勤務医共働き、同居親族なし、子だくさん」というカテゴリーに属し、多くの方々に助けていただきながら、 日々奮闘の毎日です。今後も、医局長としての経験、家庭人としての経験などを生かしながら、 多様な世帯環境に対応できる勤務システム作りを目指していきたいと考えています。

西山 慶
京都大学 医学研究科 初期診療・救急医学分野 講師・医局長
E-mail: keinishi@kuhp.kyoto-u.ac.jp
(2011.10 日本救急医学会 学術集会より)

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