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周産期への救急医療体制充実に向けて

講座だより

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 周産期への救急医療体制充実に向けて
京都大学 初期診療救急医学 特定病院助教 西山 慶

  1. はじめに
    今回、産科からのお呼びかけがあり、「合併症を有する妊産婦への救急医療」の整備を行うこととなり、 本年には正式に診療指針を公表する予定です。救急部からは私が参加させていただいており、 経過につきまして報告させていただきたいと思います。
  2. ワーキングの開始
    一昨年度末、当院でも合併症を有する妊産婦への救急医療体制充実に向けての話し合いがスタートし、 私も救急部より参加させていただきました。産科救急は、もともと内科医である私の取ってはあまり縁がなかったカテゴリーでありましたが、 幸いにもコアメンバーである産科佐藤助教・NICU河井講師(現准教授)とは以前より面識があることもあり(あまり理由にはなりませんが)、 当初はまあ何とかなるであろうと楽観視(私の悪い癖です)しておりました。
  3. 課 題
    ワーキングの冒頭、産科佐藤先生より京都での総合周産期母子医療センターは京都第一日赤病院のみで相対的に不足しており、 積極的に本学が行動せねばならない状況である説明を受けました。幸いにも参加された各診療科・診療部門のメンバーは極めて好意的で、 発生頻度等を考慮しても本学は現状でも十分産科救急に貢献できるのでは、 とまたまた楽観視しながらお話を聞いておりました(しつこいようですが私の悪い癖です)。 しかしながら続いてNICU河井先生より非常に厳しい現状報告を頂きました。曰く、「合併症母体の救急搬送を受ける場合、 早産あるいは仮死出生が予想される場合、新生児集中治療部(NICU)のベッドに空床があることが前提となります。 しかし現実には京大病院NICUの稼働率はほぼ常に100%であり、緊急時にベッドが確保できる可能性は極めて低く、 重症合併症母体は必ず受けるという体制の構築には、 たとえNICUが満床であってもICUもしくは近隣の医療機関のNICUを利用しながら新生児の管理ができることが必要となります。 しかしながら、NICUに配属されている教官は2名のみであり、緊急入院に際し新たに教官を一人追加配置し、 新たな緊急入院に対処したり、ICUで児の管理を行ったり、他医療機関のNICUへ新生児搬送を行ったりすることは現実的に不可能な状況です。 このようなNICUにおける人的資源の不足が、京大病院での合併症を有する妊婦に対する救急医療における最大の障害の一つとなっています。」 当然のことなのですが、産科救急におけるもっとも難しい点の一つは、「複数の命を、同時に救わなければならないこと」であり、 本学のような巨大な医療機関においても医療資源が極めて不十分であるという報告に、私は愕然としてしまいました。
  4. 病院への働きかけ
    以上のような状況を鑑み、ワーキンググループの命題を、システムの整備から、インフラの整備に転換し、 共同でNICUにおけるハード・ソフトの充実を各方面に訴えることといたしました。
    非常に有り難いことに、病院執行部を始め各方面の予想を上回るご協力を頂き、NICUの増員・拡充は速やかに決定し、 2010年に新規開設予定となりました(NICU河井先生よりNICUの増員・拡充のメールを頂いた時には、思わずPCの前でガッツポーズをしてしまいました)。 本学の救急医療における一つの懸案が解決されたわけであり、河井先生を始め、関係される方々には深く感謝いたします。
  5. ERでの診療シュミレーション
    過去にバイタルが不安定な妊産婦さんに対し、産科と救急科が合同で対応し、救急科はその際主としてバイタル管理と合併症検索にあたり、 胎児評価及び産科的診療を産科の先生にお願いしたことで救命が可能であった症例があり、 このような形でERにて共同で診療に当てることができるシステムを形成するべく産科の先生方と協議を進めています(図に簡単なシステムを示します)。

    現状においても、なかなかスムースに診療が進まないケースもあるのですが、今後も定期的にミーティングを開催し、 個々のケースを振り返りながらより良いシステムに出来たらと考えています。

  6. さいごに
    最近、救急部に配属される学生や研修医に将来の志望を聞くと、「産科です」と答えが返ってくることが多くなってきたような気がしています。 彼らの、強い意志を伴った明るい瞳を見るにつけ、救急医である私たちが周産期医療に貢献できることは何なのだろうと考えてしまいます。 今後も、産科・NICUをはじめ関係する方々に色々と教えを乞いながら、より良いシステムを形成できたらと考えています。 今後も合併症を有する妊産婦への救急医療のみならず、stroke careや移植医療・新興感染症・精神科救急等、 解決せねばならない命題は山積していると思いますので、関係される皆様におかれましては、何卒ご協力の程宜しくお願いいたします。

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