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Acute care surgeonをめざして~Kyoto Trauma Network 設立~

講座だより

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Acute care surgeonをめざして ~Kyoto Trauma Network 設立~
京都大学医学部附属病院 初期診療・救急科 医員 中野 良太

 はじめまして、京都大学病院 初期診療救急科 医員、中野 良太です。今年 平成21年4月より救急科のスタッフとして勤務させていただいております。

生まれも育ちも京都でして、京都大学に新しく救急の教室ができてはや4年、全国から続々と救急を志す有志が集まり、その活動や活躍ぶりを耳にするようになり、 これは是非とも一緒になって京都の救急を盛り上げて、少しでも力になればと思い、入局させていただきました。

昨年度は静岡済世会病院救急部にてER医として1年、その前は京都医療センターにて3年間、救急と外科の二束の草鞋、 それ以前は京都大学医学部外科学教室に入局し京都大学と高槻赤十字病院で外科の研修を3年間しておりました。

外科と救急

よくこんな質問をされることがあります、「先生、外科と救急とどっちするの?」とその時、いつも正直に「いや、どっちもしたいねん」と答えていました。

自分が研修医の時は今の研修医制度が始まる前で、外科教室に入局し外科医としての研修を初年度より開始するシステムでして、最初大学病院に1年、 その後市中の病院で研修していました、そんなおりオンコールにて早朝呼ばれました。電話は当直消化器内科の先生からで、 「76歳のおじいちゃんが半日ほど前に散歩中転倒され、腹部をポールで打撲、その後腹痛持続し来院、腹部レントゲンにてフリーエアーが認められ、ショック状態です、、、」

急いで病院にかけつけました、患者さんはうーうーうなり会話もできない状態で、緊急で手術の準備をし、手術しました。 腹腔内は腸液で充満して真赤に腹膜や小腸がはれておりそんななか腹腔内を洗浄し、回盲部に5センチほどの穴があいているのを見つけ、その部位を縫合しました。 ドレーンを入れ、お腹を閉じて手術は終わりました。術後より血圧は安定せず、人工呼吸器からは離脱できず、血液浄化療法を上の先生と相談して始めましたが尿もでず、 なんとかショックは離脱できましたが、その後 DIC、ARDS、とめまぐるしく病態はどんどん変化し、研修医である自分はいろんな先生に相談しながら、 2週間付きっきりでその患者さんを治療したんですが、残念ながら多臓器不全にて御亡くなりになりました。その時、自分は手術だけでは人の命は救えないな、 これはもっと自分の視野を広げて、全身を診れるようになりたいと思い、救急の分野に飛び込んでいきました。

救急では今までみたことがないような重症な患者さんが運ばれてきます、様々な病態を理解し、瞬時に正しい判断が必要とされることが多いです。

そんななか、みんなで協力しあいながら、重症敗血症性ショックで人工呼吸器に何日もつながれ、意識がない患者さんが治療の甲斐あり、 元気におしゃべりして退院していかれる姿をみると、本当にこの上ない喜びを感じることができます。

Kyoto Trauma Network 発起

今年7月に京都において外傷診療に携わる人々の連携をすすめ、外傷診療のネットワーク化を図り、外傷診療の質の向上を目指す。 という趣旨にてKyoto Trauma Networkを発起しました。

ことの始まりは、今年の6月に京都第一赤十字病院副院長の池田 栄人先生主催の京都救急の会に参加させていただいた時に、 なんて京都の救急はみんな仲がいいんだろうと関心し、そこに来ておられた第一赤十字病院救急部長の高階先生に 「外傷治療に積極的に取り組んでいきたいんですが、なかなか一施設で経験できる症例も少ないし、外傷学というのは学問的に教科書読めば勉強できるもんでもないし、 今まで取り組んでこられた先生方からその経験などを教えてもらう機会がもてないもんだろうか?」と相談したところ、快く相談に乗っていただいきました。

そこで、幸い京都には3次救命救急センターが市内に3か所存在し、各々が活発に活躍している状況があり、外傷症例数の減少や、 各施設での格差、緊急手術時に外傷を専門とする外科医の確保が困難であること、外傷外科医を志す外科医の経験できる外傷症例数が少ないなど、 さまざまな問題を外傷外科医・救急医、各施設がネットワークを形成して外傷診療のシステム化を図り、共同で外傷治療の向上をめざすことにより解決していこうと、 Kyoto Trauma Networkを設立することとなりました。小池教授、各施設の先生方に御尽力いただき10月には第一回外傷勉強会も開催、 今後地道な活動を続けていきたいと考えております。

第一回 Acute care surgery 研究会 開催

今今年は外科系救急医にとっては非常に活気ある年でした、 今年10月23日には東京で第一回Acute care surgery 研究会が“Trauma is a Surgical Disease”と題して開かれました。

折しも、米国では非手術的治療の進歩に伴い外傷手術症例数が激減したことから、外傷外科医の育成を目指したAcute Care Surgeryという新概念が導入され また欧州では、 外科分野の専門・細分化が進んだ結果、General Surgery/ Emergency Surgeryへのニーズが急速に高まり、 World Society of Emergency Surgeryという新しい学会も発足しました。このように、世界の潮流は、 Acute Care/ Emergency Surgeryへと大きな変革の時代を迎えており、これに呼応する形で日本でもAcute Care Surgery研究会が今年発足しました。

外科と救急のどっちもしたいといい、急性腹症や緊急手術、外傷治療に興味がある者としてはまさにAcute care surgeonという概念は自分にぴったりでした。

これからも堂々と自分はAcute care surgeon ですと言えるように頑張っていきたいと思います。

最後にこれまで外科と救急をすることを温かく見守っていただいた京都医療センターの外科、救急の先生方並びに、 今年京都大学病院にて外科的手技の研鑽でお世話になった肝、胆、膵、移植外科の先生方に厚く御礼申し上げます。

著者