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Dr Maedaのニューヨーク奮戦記(31)
講座だより
Dr Maedaのニューヨーク奮戦記(31)
3/2020
「Pain Management」
アメリカの医療で日本と大きく違うことのひとつとして、鎮痛薬の使い方が挙げられます。日本だと(臨床研修の限られた経験ですが)アセトアミノフェン・ロキソプロフェン程度で慢性疼痛にはたいてい対応でき、奥の手としてプレガバリン、デュロキセチン、トラマドールなどを使用していたと思います。尿管結石や急性膵炎などの急性疾患もペンタゾシン、ブプレノルフィンぐらいまでで対応できることが多く強オピオイドを使うのは悪性疾患以外ではまれだった印象です。
これに対して、アメリカでは疼痛管理が困難な症例が明らかに多いです。外来ベースでは慢性腰痛症や変形性関節症による疼痛が多く、むろん最初に使用するのは多くの場合AcetaminophenやNSAIDsですが、用量が異なりAcetaminophenは650mgを経口4時間ごと、1日4gまで使用します。NSAIDsはIbuprofen 800mg 経口6時間ごとを短期間ならば使いますが長期間の処方は避けます。これに加え、上記の各種経口薬、理学療法、外科治療などを症例に応じて使用します。局所鎮痛薬としてはこちらでもSalonpas®がありよく使用しますが、日本のものと異なり成分はlidocaineです(鎮痛薬というか、局所麻酔です)。また、実際に使用できるのは限られた医療者のみになりますが、医療用大麻も慢性疼痛に対しては選択肢になります。急性疼痛に関しては、よりアグレッシブに対応する傾向が顕著です。例えば急性膵炎や鎌状赤血球症の急性増悪などでUptodateを調べるとpain controlの主体は静注強オピオイドであり、最も使い勝手がよいのはDilaudid® (hydromorphone) です。日本では術後鎮痛に使うようなPCA (patient-controlled analgesia) ポンプを使用することもよくあります。非常によく効きますが、漫然と継続していると医原性オピオイド依存症につながってしまうため早めに終了するようにします。
慢性的にオピオイドを使用している患者さんの疼痛管理はさらに困難になります。オピオイドの処方を受けている場合は、基本的には普段使用している用量を継続し、必要に応じてoxycodoneなど短時間作用型のオピオイドを追加します。しばしば不適切なオピオイドの処方希望が問題になるため、州が行っているPMP (Prescription Monitoring Program) でControlled Substanceの処方履歴を検索して処方薬の申告が正確であることを確認したり、疑わしいケースでは尿中薬物検査で処方されている以外の薬物を使用していないかスクリーニングしたりします。Controlled Substanceにはオピオイド、医療用大麻、プレガバリン、ベンゾジアゼピン系薬、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬などが含まれ、PMPで処方元も表示されるため不適切処方を抑制するのに一役買っています。疼痛管理とはずれますが、heroinなどのオピオイド依存症に対してはSuboxone® (buprenorphine/naroxone) や長時間作用型オピオイドであるMethadoneを治療に使用するプログラムが存在し、IV drug useを続けるよりも麻薬を処方して安全に暮らしてもらうほうがよいという考え方です。渡米当時は知りませんでしたが、Mount Sinai Beth IsraelはMMTP (Methadone Maintenance Treatment Program) で昔から有名な施設だそうです。
背景はいろいろとあると思いますが、文化的に日本人を含むアジア人はあまり痛みを積極的に訴えないのに対して、アメリカ人は小さな痛みでも問題として訴えることが多いこと、また医療者側も痛みPainを「第5のバイタルサイン」として記録・対応することが求められている(2001年、Joint Commissionという病院を統括する機関が推奨)ことが関係していると思われます。その結果としていわゆるOpioid Crisisがあり、OverdoseでNaloxoneを使用することもよくあります。日本人のように多少の痛みは我慢するようにしたほうがいいよ、と言いたくなることもありますが、結局は文化の違いと思っています。
3年間で最後のNight Floatローテーションが終わり、一緒だったメンバーと打ち上げのブランチをしました。アメリカらしくEggs BenedictをIPAと一緒にいただきました。だいぶ食生活にも慣れた気がします。