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Dr. Maedaの呼吸器集中治療科フェローシップの記録 (16)

講座だより

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Dr. Maedaの呼吸器集中治療科フェローシップの記録 (16)

10/2021
「Asthma② difficult-to-treat asthma / severe asthma, biologics」

今回は呼吸器内科外来の多くを占めるdifficult-to-treat asthma / severe asthmaの対応についてです。Difficult-to-treat asthmaはmedium or high dose ICS / LABAかそれ以上の治療が必要な患者群を指し、LAMAであるtiotropium (Spiriva) やLTRA (ロイコトリエン受容体拮抗薬) であるmontelukast (Singulair) がよく併用されます。多くは治療へのadherenceや吸入薬の使用法の問題であったり、肥満、GERD (胃食道逆流症)、慢性鼻副鼻腔炎、睡眠時無呼吸症候群などの併存症による症状だったり、喫煙や環境内のアレルゲン、NSAIDなどの薬剤の影響であったり、うつ病・不安障害などによる症状であったりします。また、けっこう多いのがasthmaとして治療されているもののPFTによるairflow reversibilityが示されておらず、そもそもasthmaでないというケースで、診断自体を疑ってmethacholine challenge testなどの検査からやり直すことになります。Difficult-to-treat asthmaのうち、2割強がこれらに問題がないにもかかわらずコントロールが困難なsevere asthmaとなります。
ここからは専門家の腕の見せ所となります。GINAガイドラインとは別に、ERS  (ヨーロッパ呼吸器学会) とATS (アメリカ胸部学会) が合同でsevere asthmaのガイドライン を発表しています(PMID: 31558662)。昔だったら慢性的に経口ステロイドを使用するしかありませんでしたが、今はasthma phenotypeによっては奥の手としてbiologic (生物学的製剤) が使える場合があります。まずは診断を確認し、いわゆるType 2 (T2) inflammationが存在するかを評価します。T2 inflammationとはTh2 T細胞や好酸球が関係する炎症で、これがメインの病態であるT2-high asthmaはsevere asthmaの半数以上を占めるとされ、IgE, IL-4, IL-5, IL-13がbiologicのターゲットとなります(PMID: 30525902)。具体的には、アレルギー症状や特定のアレルゲンに対するIgEの上昇があったり、血液検査で好酸球増多(>=150/µL)があったり、FeNO (呼気中一酸化窒素) の上昇(>=20 ppb)がみられる場合です。Omalizumab (Xolair: 抗IgEモノクローナル抗体) は2003年に初めてFDAの承認を受けたasthma biologicであり、アレルギーが強い症例 (allergic eosinophilic asthma) で効果が高いとされています。Mepolizumab (Nucala), Reslizumab (Cinqair), Benralizumab (Fasenra) は抗IL-5モノクローナル抗体、Dupilumab (Dupixent) は抗IL-4Rαモノクローナル抗体(IL-4 とIL-13の両方のsignalingを抑制) であり、アレルギーの関与が明らかでない症例(nonallergic eosinophilic asthma)でも増悪の頻度を減らす効果があります。特にDupilumabはアトピー性皮膚炎にも適応があり、慢性鼻副鼻腔炎、鼻茸を伴う症例で効果が高く、経口ステロイドが切れない症例でも保険がおりるため、使い勝手に関しては一番よいと感じています。
T2-low asthmaは好酸球が関与しない炎症がメインとなるphenotypeで、neutrophilic, mixed, paucigranulocyticに大別され、経口ステロイドも効きにくいのでしばしば治療に難渋します。現在では奥の手としてはマクロライド系抗菌薬のazithromycinがあり、250-500mgを毎日あるいは週3回内服することで増悪が減少するとされています(PMID 28687413)。
最新のbiologicとして、抗TSLP (thymic stromal lymphopoietin) モノクローナル抗体であるTezepelumab (Tezspire) の第3相試験の結果がNEJMに今年出版され(PMID: 33979488)、現在FDAで審査中です。TSLPは気管支上皮細胞から分泌されるサイトカインで、TezepelumabはT2-high asthma, T2-low asthmaの両方のpathwayを上流からブロックし、好酸球増多の有無にかかわらず増悪を減少させるとされ、期待されています。

9月のRochesterは涼しくてアウトドアに最適です。Wyckham Farmというところに皆でリンゴ狩りに行ったのですが、農場全体がアミューズメントパークのようになっており1日中楽しめました。

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