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Dr. Maedaの呼吸器集中治療科フェローシップの記録 (17)

講座だより

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Dr. Maedaの呼吸器集中治療科フェローシップの記録 (17)

11/2021

「Pulmonary Vascular Disease① Pulmonary Hypertension」

URMCはUpstate New Yorkで唯一のPulmonary Hypertension (PH: 肺高血圧症) Care Centerであり、複雑なPHの症例が遠方からも紹介されてきます。日本ではPHは循環器内科の疾患というイメージが強いと思いますが、アメリカでは施設によって呼吸器内科と循環器内科の住み分けが微妙に違うようです。URMCにはPHの専門家は2人おり、いずれも呼吸器内科医です。彼らはPH患者の外来と、フォローしているPH患者が入院した場合のAttendingとして診療を行う傍ら臨床・基礎研究も行っています。循環器内科はRHC (Right Heart Catheterization: 右心カテーテル検査) が必要なときに関わりますが、基本的に治療方針の決定には関与していません。Fellowの外来とは別枠のため複雑なマネジメントに直接かかわることは頻繁ではありませんが、新規に診断されたPHのコンサルトや、肺血管拡張薬を使用している患者がMICUに入院した場合など、PHの基本的な知識は一般呼吸器内科・集中治療医でも必須です。
PHは右心系の負荷による労作時呼吸困難や失神、浮腫・体液貯留がメインの症状となり、TTE (Transthoracic Echocardiogram: 経胸壁心臓超音波検査) により推定されるPASP (Pulmonary Arterial Systolic Pressure: 肺動脈収縮期圧) の上昇が診断の手がかりとなります。Gold standardはRHCによるmPAP (mean Pulmonary Arterial Pressure: 平均肺動脈圧) の直接測定であり、原因が明らかでない症例ではRHCを行うことが重要です。2019年に更新されたWorld Symposium of Pulmonary Hypertensionの定義ではmPAP > 20mmHgでPHと診断することになっています。更新前の定義ではmPAP >= 25mmHgだったので、診断基準が緩くなったことになります (PMID: 30545968) 。
WHOはPHを5つのグループに分類しており、圧倒的に多いのはGroup 2、左心不全による (post-capillary) PHです。LVEF (Left Ventricular Ejection Fraction: 左室駆出率) に関わらず、いわゆるDiastolic filling pressureが高い状態になるとLA (Left Atrium: 左房) の手前の肺静脈で血流がうっ滞し、PAWP (Pulmonary Artery Wedge Pressure: 肺動脈楔入圧) が上昇 (> 15 mmHg) 、したがってPAPも上昇します。他のGroupは基本的にpre-capillary PHで、左心系・肺静脈には問題がなくPAWPは正常、PVR (Pulmonary Vascular Resistance: 肺血管抵抗) のみが上昇している状態です。Group 1はPAH (Pulmonary Arterial Hypertension: 肺動脈性肺高血圧症) で、特発性、家族性、薬剤、膠原病、HIV、先天性心疾患や門脈圧亢進症によるものが含まれ、肺動脈血管内皮の異常によりPHを生じます。Group 3はCOPD, ILDなどの肺疾患や、睡眠時無呼吸症候群などによる慢性的な低酸素症に起因するhypoxic pulmonary vasoconstrictionが主要な病態とされています。Group 4はCTEPH (Chronic Thromboembolic Pulmonary Hypertension: 慢性血栓塞栓性肺高血圧症) を始めとした肺動脈の閉塞をきたす病態です。残ったGroup 5がそれ以外の複雑なPH (複雑な先天性心疾患、血液疾患など) となっています。
治療はGroupによって異なります。Group 2では利尿薬などによる左心不全の治療以外に特別な対処法はありません。Group 4のCTEPHでは血栓が原因のため、抗凝固薬を使用するのと、soluble guanylate cyclase stimulator (可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬) であるRiociguat (Adempas) が適応となっており、PEA (Pulmonary Endoartherectomy: 肺動脈内膜剥離術) ができる施設への紹介を考慮します。多くの軽度~中等症の症状があるGroup 1 PH (PAH) ではPDE (Phosphodiesterace: ホスホジエステラーゼ)-5 inhibitorとERA (Endothelin Receptor Antagonist: エンドセリン受容体阻害薬)を使用します。Tadalafil (Adcirca) とAmbrisentan (Letairis) を同時に開始することが多いです。これでも症状が十分改善しない場合、prostacyclin analogであるtreprostinilを追加します。経口 (Orenitram)・吸入 (Tyvaso)・ポートを使用した持続皮下注または静注 (Remodulin) の3種類の剤形がありますが、半減期が短くいずれも厳密な管理が必要になります。ICU入院が必要な重症例では同じくprostacyclin analog であるepoprostenol (Flolan) の持続静注または吸入を使用することがあります。Group 3では従来、原因となる呼吸器疾患の治療以外に対処法はありませんでしたが、今年のNEJMでILDに由来するPH患者で吸入treprostinilが運動耐用能およびFVCを改善したという報告があり (PMID: 33440084; PMID: 34214475: INCREASE試験) 、URMCでも吸入treprostinilを投与しているILD患者が増えてきているようです。

今年もpumpkin patch (ハロウィン用のかぼちゃを収穫すること) のために近くのfarmer’s marketを訪れました。なぜか羊やアルパカの餌やりコーナーがあり家族連れで賑わっていました。日本ではあまり体験できないことが結構あります。

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