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Dr. Maedaの呼吸器集中治療科フェローシップの記録 (18)

講座だより

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Dr. Maedaの呼吸器集中治療科フェローシップの記録 (18)

12/2021
「Pulmonary Vascular Disease② Pulmonary Embolism」
PH (Pulmonary Hypertension: 肺高血圧症) 絡みでよく目にするのがPE (Pulmonary Embolism: 肺塞栓症) です。遺伝的素因(Factor V Leiden等)、生活習慣、肥満、経口避妊薬の使用など多くの要因があり、米国ではPEを始め血栓症は常に鑑別診断の上位に上がります。さまざまな分類、治療法が最近で整理されてきている分野です。
PEは急激な肺動脈圧の上昇による右心不全が問題で、胸痛、呼吸困難、失神などの症状がきっかけで診断されます。罹患率が高いため、救急外来では必ず鑑別にあげ、PERC (pulmonary embolism rule-out criteria) で除外できない場合、Wells criteriaに従い検査を進めていきます。多くの場合はhigh riskとなるためD-dimer測定なしでCT pulmonary angiogramを撮影することになります。腎機能低下やアレルギーなどでCTPAができない場合はV/Q scanや下肢静脈超音波検査で代用することが多いです。PEと暫定・確定診断した場合、抗凝固療法(基本的にLWMH (low molecular weight heparin: 低分子ヘパリン))を開始しつつ、重症度評価に進みます。
重症度分類はアメリカとヨーロッパで少し違い、AHA (American Heart Association) ガイドライン (PMID: 21422387) ではMassive, Submassive, Nonmassiveの3段階に分類されるのに対しESC (European Society of Cardiology) ガイドライン (PMID: 31504429) ではHigh, Intermediate-high, Intermediate-low, Low riskの4段階です。といってもAHAガイドラインは2011年で、DOAC (direct oral anticoagulant) もdabigatranが辛うじて出たぐらいのときで治療法も大きく変わっているので、2019年のESCガイドラインを専ら参照しています。Massive / High riskは非代償性の急性右心不全・閉塞性ショックに陥っている場合で、血栓を除去し肺高血圧を解除しなければいけません。静注tPA (tissue plasminogen activator) による血栓溶解療法、またはVA-ECMOからの外科的または経皮的血栓除去術が救命に必要となります。Submassiveは右心系負荷を来しているがショックには陥っていない場合で、右室機能異常(TTEまたはCTPAでの右心負荷所見) と心筋傷害(Troponin上昇)が両方ある場合はIntermediate-high riskとなり、片方のみの場合はIntermediate-low riskに分類されます。Intermediate-high riskが今後の臨床データの蓄積が期待される分野で、静注tPA, CDT (catheter-directed thrombolysis), catheter-directed thrombectomy, 抗凝固療法のみ、と多彩な選択肢があり、どれが最もrisk / benefitのバランスで最適かよくわかっていません。Intermediate-low riskとNonmassive / Low riskでは抗凝固療法のみでよく、多くは入院またはobservation unitで短期間の経過観察を行いますが、Low riskでPESI (pulmonary embolism severity score) が低い場合はDOACの処方のみで帰宅、外来治療も可能とされています。
他にアメリカでのPEの診療の特徴としては多くの診療科が関わることです。PERT (pulmonary embolism response team) と呼ばれる特殊なrapid response teamが過去10年程度で普及し、PEの急性期予後の改善につながっています (PMID: 31495443)。以前働いていたMSBI, SMHともにmassive / submassive PEの診断時にPERTを召集するのがプロトコルとなっています。SMHではPERTの構成員には循環器内科のFellow、MICU担当のFellowおよび薬剤師が含まれ、重症度、侵襲的治療の有無、入院先を素早く決定するのと初回の抗凝固薬(だいたいEnoxaparin)の投与を行います。基本的にHigh riskとIntermediate-high riskではICU入院、Intermediate-low riskでは一般内科病棟入院とします。最終的に外来でフォローアップするのは軽症例では一般内科がメインですが、血栓性素因があるまたは疑われる場合では血液内科、右心不全やCTEPH (Chronic Thromboembolic Pulmonary Hypertension: 慢性血栓塞栓性肺高血圧症) を来した場合はPHの専門家 (URMCでは呼吸器内科) が関わります。

Thanksgivingは友人宅でTurkey (七面鳥) をご馳走になり、子供達はTurkeyのジンジャークッキーを作りました。

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