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Dr. Maedaの呼吸器集中治療科フェローシップの記録 (27)

講座だより

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Dr. Maedaの呼吸器集中治療科フェローシップの記録 (27)

9/2022

「Tuberculosis」

1905年に設立されたATS (American Thoracic Society: 米国胸部学会) は今では呼吸器・集中治療医学のあらゆる分野の学術活動を行っていますが、もともとは結核 (Tuberculosis, TB) の治療をメインテーマとしていました。呼吸器感染症に関してはIDSA (Infectious Disease Society of America: 米国感染症学会) と合同で多くのガイドラインを発表しており、結核もその1つです(PMID: 27932390)。施設・個人によってだいぶ差がありますが、肺結核の診断に関しては呼吸器内科医が重要な役割を担っています。肺外結核、LTBI (latent TB infection: 潜在結核) の管理や抗結核化学療法のトラブルシューティングに関しては感染症科医のほうが経験豊富なので紹介になることが多いです。URMCの呼吸器内科医のうち何人かはMonroe County Department of Health (モンロー郡保健局) のTB Clinicの当番を交代でしており、2週間に1回ある保健局・URMCの合同カンファレンスを通じて感染症科等の他科とも相談しながら診療をしています。

結核は地理・人種等により大きく疫学が異なり、診療戦略も変化してくるのが面白いところです。米国全体としては活動性結核(Active TB disease)の罹患率は2.4 / 10万人となっており、日本(12 / 10万人)やインド(188 / 10万人)等と比べると圧倒的に少ないです。多くは中・高蔓延国から移住してきた外国人で、彼らが住んでいる都市部と米国生まれの人が多い郊外では大きく罹患率が異なります。RochesterのあるMonroe Countyは2.0 / 10万人となっており、罹患率はやはり少ないですが街には海外からの移民がそれなりにいるため周囲の郡と比べると若干高くなっています。移民の際にはスクリーニング検査が要求され、これが陽性になって保健局にやってくる例が多いです。最近では世界情勢を反映して、ウクライナからやってくる人が多くなっているようです。

医療職として就職する際は、結核のスクリーニング検査を行うことがCDCにより推奨されています (https://www.cdc.gov/tb/topic/testing/healthcareworkers.htm)。日本のように胸部X線ではなく、TST (tuberculin skin test: ツベルクリン反応、PPD (purified protein derivative) といわれることが多い) またはIGRA (interferon-gamma release assay: Quantiferon TB® または T-SPOT. TB®) による免疫反応の検査が行われ、陽性者のみ活動性結核の検索目的で胸部X線を撮影します。多くの医療機関ではTST が要求されますが、BCG (Bovine Carnette Gurrain) ワクチン接種をしている国から来ている外国人にとっては迷惑な制度です(BCGワクチンはMycobacterium tuberculosisではなくM. bovisの特定の株から作られるが、TSTに含まれる成分にも免疫が作られるため偽陽性となる)。CDCが2021年に推奨を変更するまでは、医療職を含む特定の職業に従事する者は毎年スクリーニング検査を受けることになっており、私も NYCのMSBIではTSTを毎年受けては陽性になり、追加で検査してIGRAが陰性で事なきを得るというのを繰り返していました。現在はNew York州では毎年の検査は不要となり、入職時と活動性結核症例に曝露した場合のみということになったため助かっています。理由は有病率が十分低く毎年の検査はあまり医学的に有益でないからということのようです。一方、HIVがあったりTNFα阻害剤などの生物学的製剤を使用している患者では毎年のスクリーニング検査を行っていることが今も多いです。

LTBIは感染性はないですが、一定の確率で活動性結核を発症するため治療を推奨します。以前はIsoniazid 9か月の投与が基本でしたが、最近はRifampin 4か月、Isoniazid + Rifapentine 週1回を3か月といったレジメンも登場し、治療がやりやすくなってきているようです。活動性結核の治療はIsoniazid + Rifampin + Ethambutol + Pirazinamideの4剤併用療法が基本で、これは日本と変わらないと思いますが、濃厚接触者の追跡・予防投薬など保健局が直接患者の管理をすることでスムーズにいく部分が多いと感じています。

8月に2週間ほど一時帰国できました。海外暮らしだと家族に会うのも一苦労ですが、そのぶん日本という国の美しさ、文化、そして美味しい食べ物を満喫できました。異国でパンデミックの中頑張った甲斐があったと感じました。

 

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