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Dr. Maedaの呼吸器集中治療科フェローシップの記録 (28)

講座だより

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Dr. Maedaの呼吸器集中治療科フェローシップの記録 (28)

10/2022

「Thoracic Oncology」

以前にも触れたことがありますが、肺癌は日米ともに癌死亡の主要な原因であり、たばこ喫煙やラドン曝露による肺癌発症リスクの軽減に加え、最近は低線量胸部CTによるスクリーニングの普及が課題となっています。胸部X線やCTで異常な陰影がみられた場合、基本的にまずは呼吸器内科に紹介となります。呼吸器内科医としては当然、肺癌自体や合併症の診断・管理に習熟している必要があります。ただ米国で呼吸器内科をするにあたって日本と大きく違うと思うのは、肺癌の治療に関しては腫瘍専門医がイニチアチブをとるため呼吸器内科医が自分で化学療法などを行うことはないということです。Medical Oncology(腫瘍内科)は1972年にAmerican Board of Internal Medicine(米国内科専門医機構)が認めた内科系の専門診療科であり、多くの場合Hematology / Oncology(血液・腫瘍内科)のFellowshipを修了した内科医が癌患者の治療(特に化学療法)を主導します。そのような関係で日本で呼吸器内科医を名乗るのは畏れ多いのですが、URMCは大きながんセンターを持っていることもあり、Thoracic Oncologyの症例は豊富に経験できています。Radiation Oncology(放射線治療科)、Thoracic Surgery(胸部外科)との協力も不可欠であり、毎週Tumor Boardといわれる合同カンファレンスでMedical Oncology、Radiation Oncology、Thoracic Surgery、General / Interventional Pulmonologyの中で肺癌を専門としている者たちが話し合って診断・治療戦略を決定していきます。日々分子標的薬や免疫療法などが進歩していく中で、一般呼吸器内科と集中治療領域の知識・技術をアップデートしながら肺癌の治療まで学ぶのは現実的でなく、Medical Oncologyの存在は非常に大きいです。

偶発的に発見された肺結節に関してはFleischner guideline (PMID: 28240562)、低線量胸部CTでの肺癌スクリーニングで発見された場合はLung-RADS (https://www.acr.org/-/media/ACR/Files/RADS/Lung-RADS/LungRADSAssessmentCategoriesv1-1.pdf) に従って対応します。CTを時間をおいて再撮像したり、肺癌の可能性が高い場合はPET/CTを撮影したり、気管支鏡(Interventional Pulmonology)あるいは経皮的生検(Interventional Radiology)により診断をつけます。こういうシナリオでは多くは早期発見・診断できており、Performance Status、PFT (pulmonary function test: 呼吸機能検査) 次第ではVATS (video-assisted thoracic surgery: ビデオ胸腔鏡下手術) 肺切除術により根治が望めます。手術適応でない(あるいは、患者が手術を拒否している)場合でもSBRT (stereotactic  body radiation therapy: 体幹部定位放射線治療) でほぼ遜色ない治療成績が得られており、症例によってはPET/CTの結果をもとに肺癌と暫定診断し ”empiric SBRT”  を行うこともあります(PMID: 30788230)。入院コンサルトでよく診るのはPerformance Statusも悪く、胸部リンパ節腫脹・胸水貯留や遠隔転移がある進行期の肺癌であり、EBUS-TBNA(気管支内超音波・経気管支的針生検)や胸腔穿刺により診断とStagingを同時に行います。NCCN guideline(https://www.nccn.org/guidelines/guidelines-detail?category=1&id=1450 / https://www.nccn.org/guidelines/guidelines-detail?category=1&id=1462)に従い、多くの症例で胸腹部骨盤造影CT、PET/CT、脳MRIも撮影してStagingを決定しつつ、治療はMedical Oncologyに依頼します。残念ながら多くはStage IIIIB以降で根治不能であるため、組織診断・遺伝子変異に基づいて適切な薬物療法(場合により、放射線療法も)を開始することになります。

肺癌とすでに診断されている患者のトラブルシューティングにも呼吸器内科が関わることが多く、具体的には新たな肺結節が出現し再発が疑われる場合の生検、腫瘍による気道閉塞の評価、治療関連肺障害(放射線肺障害、NivolumabやPembrolizumabといった免疫チェックポイント阻害薬による薬剤性肺障害)の評価や治療などがあり、気管支鏡がやはり重要な技術になります。化学療法に反応しない悪性胸水の症例では、症状緩和目的でPleurX® (Indwelling Pleural Catheter: 皮下トンネル式の留置型胸腔カテーテル) を留置し、在宅で排液を行うことができます。これが便利なため、胸膜癒着術は久しく目にしていません。最終的にはMedical ICUに入院してきたときに種々の支持的治療・Advanced Care Planningを任されるのが集中治療医(多くは呼吸器内科医)となります。今後も発展が著しい分野なのでUpToDateであり続けられるよう努力したいと思います。

1ヶ月ほど前に日本に一時帰国していたのが大昔のことのように感じます。Rochesterから関西へはChicago O’ Hare空港、成田または羽田を経由して伊丹空港まで行くのが最適ルートのようです。分厚くてチーズのたっぷり乗ったシカゴピザを待ち時間に食べました。

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