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Dr. Maedaの呼吸器集中治療科フェローシップの記録 (8)

講座だより

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Dr. Maedaの呼吸器集中治療科フェローシップの記録 (8)

2/2021
「Cystic Fibrosis」

忘れないうちに、Pulmonary Subspecialty Clinicローテーションについて書いていこうと思います。最も多くの時間がとられていたのがCystic Fibrosis (CF: 嚢胞性線維症) の外来でした。CFTR遺伝子の変異による疾患で、欧米では3000人に1人と割と頻度の高い遺伝性疾患です。国家試験にも出た記憶がないのですが、日本でも出生60万人に1人程度発症するようです。CFTR遺伝子は塩素の輸送に関連しており、全身の外分泌腺に異常を生じ粘度の高い分泌液によって管腔臓器の閉塞をきたすことが主要な病態です。症状は繰り返す副鼻腔炎や肺炎・気管支拡張症、膵臓の外分泌腺の障害による脂肪便・吸収障害、CF-related diabetes (糖尿病), 精管形成不全による不妊症など多岐にわたります。アメリカでは新生児スクリーニングの項目に含まれており、確定診断は遺伝子検査により行われます。小児期での診断が多いですが最近は壮年期以降に診断される例もあるようです。
URMCではCFのほか、Sickle Cell Disease (鎌状赤血球症) 、Cerebral Palsy (脳性麻痺)、先天性心疾患 などを扱うComplex Care Centerという部署を設けており、小児期から成人まで継続してケアを提供しています。CFはいわゆる難病であり、CF Foundationという機関が米国全体にまたがるCF Care Center Networkを通じてレジストリを構築しており、URMCはCF Foundationが要求する厳格な基準を満たし認定・補助を受けています。この基準には、CF患者の定期的な外来フォローアップ、血液検査・OGTT (糖負荷試験)、喀痰培養検査、呼吸機能検査、胸部X線検査などを行うこと、CFに特化した医師・呼吸療法士・栄養士・臨床心理士・ソーシャルワーカーなどのチームがあること、などが含まれます。
上記のようにCFは全身疾患であり、Complex Care Centerでは呼吸器内科ではなく一般内科としてCF患者のトータルケアを提供しています。CF関連の定期的な検査や膵酵素補充療法・糖尿病の診療に加え、それ以外のPrimary Care (予防接種、悪性疾患のスクリーニング、急性・慢性疾患の対応など) も行っています。肺はCFによる臓器障害のなかでも最もQOLや予後に関係するので、重要です。
CFによる肺疾患は、粘稠な喀痰による咳嗽や気道の閉塞、繰り返す肺炎、結果として引き起こされる喘息に類似した閉塞性肺疾患や気管支拡張症が特徴的です。細菌感染を繰り返すうちに気道にS. aureus (黄色ブドウ球菌) やP. aeruginosa (緑膿菌) が定着するようになり、耐性化が問題になります。またMACやM. kansasiiなどの非結核性抗酸菌、Aspergillusを主とした真菌感染も問題になってきます。最も重要なのは定期的に気道分泌物を排出してPulmonary Exacerbation (急性増悪) を予防することで、Oscillating PEP (positive expiratory pressure) デバイスやVestを用いた理学的治療が効果があることがわかっています。これに加え、DNaseと高張食塩水の吸入、Azithromycin内服を組み合わせて行うのと、P. aeruginosaが喀痰培養から検出されている患者ではTobramycin吸入を定期的に行います。呼吸機能検査は3か月に1回程度行うことになっています。
Pulmonary Exacerbationが起こってしまった場合、患者は膿性喀痰、呼吸困難などの症状を呈し、場合によっては入院が必要になります。より強力なAirway clearance therapyに加え、過去の喀痰培養の結果に基づき2週間程度の抗菌薬治療を行います。これを繰り返して徐々に悪化していくため、FEV1 < 30% predictedぐらいになると肺移植が治療選択肢に入ってきます。平均寿命は従来30歳前後となっていました。
しかし、遺伝子治療の発展により、多くのCF患者にとって福音と言うべき薬剤が2019年に認可されました。Trikafta® (Elexacaftor-Tezacaftor-Ivacaftor) といいます。以前から使用されていたCFTR potentiatorであるIvacaftor, これにCorrectorであるTezaccaftorを加えたSymdeko® (Tezacaftor-Ivacaftor) がありましたが、これに新しいCorrectorであるElexacaftorを加えることにより、約90%のCF患者でCFTRの機能回復が期待できるようになりました(PMID: 31697873, PMID: 31679946)。Pulmonary Exacerbationは減り、呼吸機能や栄養不良の改善が多くの患者がみられるようになっています。

Rochesterは雪国です。寒い中、早朝、夜中まで除雪車が仕事をしており頭が下がります。

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