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呼吸器・集中治療医Dr. Maedaの武者修行 in Alabama(6)

講座だより

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呼吸器・集中治療医Dr. Maedaの武者修行 in Alabama(6)

2/2024

「Pulmonary Function Test① Spirometry」

12月最終週はもともとFaculty Practice Clinicというローテーションの予定で,これはBirmingham市内にあるThe Kirklin Clinic (メインの外来) で急に呼吸器内科の診療が必要になった患者の外来を行い、Fellowの外来の監督をし、PFT (pulmonary function test: 呼吸機能検査) の所見をつけ、その他雑多な外来の仕事をするという内容です。Holiday seasonによりFellowの外来はなかったため楽なスケジュールの予定でしたが、病欠者の発生によりまたまた関連病院のRussell Medicalへの出張に変更となりました。PFTは予定通り担当だったので、大晦日のHighlands ICUのシフトの間に終わらせました。PFTは呼吸器内科ではいうまでもなく重要な検査です。復習も兼ねてまとめてみようと思います。

Spirometryは呼吸器疾患の種類や重症度を調べるために最も基本の検査で、ほぼ必ず行われます。患者は鼻をクリップで閉鎖し、口にマウスピースをはめ、Respiratory Therapist (呼吸療法士) の指示にしたがって深い吸気のあと一気に息を吐き出し、最初の1秒の呼気量がFEV1 (forced expiratory volume in one second: 1秒量) 、呼気の最初から最後までの合計がFVC (forced vital capacity) として記録されます。3回以上やって大きな誤差がない場合、信頼性の高い測定結果となります。FEV1/FVC (1秒率) がobstructive ventilatory defect (閉塞性換気障害: 以下obstruction) の有無を決定し、FVCがrestrictive ventilatory defect (拘束性換気障害: 以下restriction) の有無の推定に役立ちます(確定するためにはTLC (total lung capacity: 総肺活量) を測定しなければなりません)。Asthma (喘息) やCOPDが疑われる場合は、SABA (short-acting beta-2 agonist: 短時間作用型β2作動薬) 吸入後にSpirometryを再度行い、FEV1 and/or FVCに有意な改善が見られるか調べます(”Bronchodilator responsiveness testing”)。Flow-volume loopもレポートに印刷されるので、形状が異常でないか必ず確認します。気管内腫瘍やInducible laryngeal obstruction (もともとvocal cord dysfunction 声帯機能不全と呼ばれていましたが、最近名称が変更されました) など上部気道の狭窄・閉塞を来す病態の場合はこれが診断の手がかりになります。

PFT全般で最近検査結果の解釈について議論があり、施設間でもかなり違いがあります。URMCでは私のFellowship開始時 (2020年) はFEV1/FVCが正常下限 (lower limit of normal: LLN,5パーセンタイル) 未満をobstructionとしていて、bronchodilator responsivenessは”FEV1 and/or FVCが200mL以上、かつSABA吸入前の値の12%以上の改善” という定義に従っていました(PMID: 16264058)。2022年後半からはZ-scoreを使用した新定義を採用し、Z-score -1.645未満(5パーセンタイルに相当)が異常、Bronchodilator responsivenessは”FEV1 and/or FVC 推定正常値の10%以上の改善” を陽性とすることとしていました(PMID: 34949706)。しかし、UABでは年齢にかかわらず0.70未満をobstructionとしており(COPDの国際ガイドラインを作成しているGOLD (global initiative for chronic obstructive lung disease) ではSABA吸入後spirometryでのFEV1/FVC<0.70がCOPDの診断基準となっています(https://goldcopd.org/2024-gold-report/))、FEV1に基づく換気障害の重症度判定もnormal, mild, moderate, moderately severe, severe, very severeの6段階に分かれたままです(PMID: 16264058)。

さらに、米国では従来人種ごとに異なる正常値が使用されていましたが、これに従うとAfrican American (= Black) の肺機能の正常値はWhiteと比較して低くなることになります。詳細は省きますが、これは生物学的というより社会的な要因と考えられており、これからはrace-neutralの正常値を使用することになっていくようです(PMID: 36973004)。余談ですが、腎機能の推定に使用されるeGFRも同様に最近はrace-neutralの正常値を使用することになってきています。根拠となる文献を読んでみると科学的に妥当なことのようですが、人種差別が昨今ますます問題視されている影響も多大にある(より多くの研究費が許可されている?)と感じています。

1月15日はMartin Luther King Jr. Dayで祝日です。King牧師が暮らしていたこともあるアラバマ州の州都、Montgomeryに日帰りで観光にいきました。Montgomeryは南北戦争の初期に南部同盟の首都だったこともあり、歴史的建造物が多く残っています。写真は南部同盟最初のホワイトハウスです。

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